甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合において、乙がさらに丙に対し右融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、丙がこれらの書類により乙から丙への所有権移転登記を経由したときは、甲は、丙の所有権取得の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗できないと解すべきである。
融資を受けるため売買を仮装して不動産を他人名義にした場合と第三者に対する責任
民法94条2項,民法110条
判旨
通謀虚偽表示による仮装の登記名義人から、さらに別の者に無断で移転登記がなされた場合でも、真の所有者は、その登記を信頼して取引をした善意無過失の第三者に対して、所有権取得の無効を対抗できない。
問題の所在(論点)
虚偽表示の直接の相手方(D)から、さらに無断で移転登記を経由した名義人(A2)が現れた場合において、真の所有者(被上告人)は、その不実の登記を信頼して取引をした第三者(A1)に対し、民法94条2項(および110条の類推適用)により所有権を対抗できなくなるか。
規範
民法94条2項および110条の法意に照らし、外観尊重および取引保護の要請に基づき、真の所有者が虚偽の外観(登記名義)を作出した以上、その名義人からさらに別の名義人へと不実の登記が連鎖した場合であっても、その後の新たな登記を信頼して取引関係に入った善意無過失の第三者に対しては、登記の無効を主張し得ない。
重要事実
被上告人(甲)は融資を受けるため、D(乙)と通謀して売買を仮装し、本件土地の所有権移転登記をDに経由した。その後、Dは上告人A2(丙)に対し、融資のあっせんを依頼して登記済証等の書類を預けたが、A2はこれを利用して無断でDからA2自身への所有権移転登記を経由した。さらに、上告人A1(第三者)は、A2を所有者と信頼して本件土地を買い受け、代金を支払って所有権移転請求権保全の仮登記を完了した。
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
あてはめ
被上告人はDに対し虚偽の外観を仮装した。Dからその外観を取り戻さない限り、Dの意思に基づき登記書類がA2に渡り、これによってA2名義の不実の登記がなされるという「外観の連鎖」が生じている。このA2名義の登記を信頼して取引に入ったA1は、保護されるべき第三者に当たる。したがって、A1がA2の所有権取得が有効であると信じるにつき「善意無過失」であれば、被上告人は自らが作出した虚偽の外観に端を発するA2名義の登記の無効を、A1に対抗できないと解される。
結論
原審はA1が善意無過失であるか否かを審理すべきであり、これを尽くさずにA1の所有権取得を否定した判断には審理不尽の違法がある。よって、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
虚偽表示による登記残存中に、受託者が第三者に書類を交付して不当な登記がなされた「転々とした不実登記」の事案において、94条2項・110条類推適用の法理により善意無過失の第三者を保護する枠組みとして用いる。本判決は、外観作出の帰責性が直接の相手方に止まらない場合でも取引保護を優先する射程を持つ。
事件番号: 平成14(受)1008 / 裁判年月日: 平成15年6月13日 / 結論: 破棄差戻
不動産の売買等を業とする会社が,地目変更等のためと偽って不動産の所有者から交付を受けた登記済証,白紙委任状,印鑑登録証明書等を利用して,当該不動産につき同社への不実の所有権移転登記を了したが,当該所有者が,虚偽の権利の帰属を示すような外観の作出につき何ら積極的な関与をしておらず,上記の不実の登記の存在を知りながら放置し…
事件番号: 昭和42(オ)524 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。
事件番号: 平成15(受)1103 / 裁判年月日: 平成18年2月23日 / 結論: 棄却
不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていた甲が,Xから交付を受けた当該不動産の登記済証,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につき甲への不実の所有権移転登記を了した場合において,Xが,合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたって甲に預けたままにし,甲の言うまま…
事件番号: 昭和42(オ)99 / 裁判年月日: 昭和44年5月27日 / 結論: 棄却
甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し、丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合においては、甲は、丙に対して、登記の欠缺を主張して右不動産の所有権の取得を否定することはできない。