部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。
民法第九四条第二項の適用または類推適用がないとされた事例
民法94条2項,民法263条
判旨
部落民全員の総有に属する入会地について、登記の便宜上、代表者3名の共有名義とする登記を経由したとしても、それは仮装の売買契約に基づく虚偽の外観を作り出したものとはいえず、民法94条2項の適用または類推適用は否定される。
問題の所在(論点)
入会地(総有)を登記するにあたり、便宜上代表者の共有名義とした行為が、民法94条2項の「虚偽の意思表示」またはこれと同視できる外観作出に該当し、善意の第三者に対抗できなくなるか。
規範
民法94条2項の適用または類推適用が認められるためには、本人による通謀虚偽表示の存在、または虚偽の外観の作出に本人が帰責性を有することが必要である。もっとも、実体法上の権利関係(総有)を公示する公的な登記方法が存在しないために、やむを得ず便宜上の名義を用いたにすぎない場合には、仮装の意思表示や虚偽の外観作出と同視することはできず、同条の適用・類推適用は認められない。
重要事実
本件土地は、古くから大字bの部落民全員の総有(村中入会)に属していた。部落名義では登記権利者としての能力を欠くため、当時の区長ら代表者3名の名義で売買を原因とする共有持分移転登記がなされた。その後、代表者の1人の相続人が持分移転登記を経由し、これに基づき善意の第三者である上告人らが権利を主張した。上告人らは、部落民全員が虚偽の外観を作り出したものであるとして、民法94条2項の適用または類推適用を主張した。
事件番号: 昭和44(オ)1009 / 裁判年月日: 昭和45年6月2日 / 結論: その他
甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合において、乙がさらに丙に対し右融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、丙がこれらの書類により乙から丙への所有権移転登記を経由…
あてはめ
本件で土地は部落民全員の総有に属しており、性質上共有持分は存在し得ないものである。しかし、当時の不動産登記実務上、部落名義や総有関係を直接登記する方法が欠如していたため、登記の必要に迫られ便宜的に代表者名義としたにすぎない。これは入会権者と代表者との間に仮装の売買契約があったものと解することはできず、またそれと同視すべきものともいえない。したがって、本人の帰責性に基づく虚偽の外観作出とは認められない。
結論
本件登記は民法94条2項の類推適用を認めるべき虚偽の外観には当たらない。したがって、被上告人らは上告人らに対し、土地が代表者らの共有ではないことを対抗できる。
実務上の射程
権利能力なき社団等の不動産が代表者個人の名義で登記されている場合、その登記は実体(総有)を反映できない制度上の制約に基づくものであり、直ちに94条2項の類推適用を認めるべきではないとする射程を有する。ただし、本判決は登記の便宜という事情を重視しており、代表者が勝手に処分できるような外観を積極的に承認した事情がある場合には、別途94条2項類推適用の可否を検討する余地がある。
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
事件番号: 昭和42(オ)1472 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 破棄差戻
一個の債権担保のため、甲乙丙不動産につき停止条件付代物弁済契約がされるとともに、所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合において、債権者が甲不動産を代物弁済により所有権を取得し、それに基づいて所有権移転登記を経由したにすぎないときは、その後乙不動産につき所有権移転請求権保全の請求権を譲り受けた者がした代物弁済による…
事件番号: 平成14(受)1008 / 裁判年月日: 平成15年6月13日 / 結論: 破棄差戻
不動産の売買等を業とする会社が,地目変更等のためと偽って不動産の所有者から交付を受けた登記済証,白紙委任状,印鑑登録証明書等を利用して,当該不動産につき同社への不実の所有権移転登記を了したが,当該所有者が,虚偽の権利の帰属を示すような外観の作出につき何ら積極的な関与をしておらず,上記の不実の登記の存在を知りながら放置し…
事件番号: 平成16(オ)402 / 裁判年月日: 平成17年12月15日 / 結論: 破棄差戻
甲名義の不動産につき,甲から乙,乙からYが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,甲の相続につき共同相続人Xが存在するときは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,Xは,Yに対し,上記不動産の共有持分権に基づき,上記登記の全部抹消を求めることができる。