甲名義の不動産につき,甲から乙,乙からYが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,甲の相続につき共同相続人Xが存在するときは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,Xは,Yに対し,上記不動産の共有持分権に基づき,上記登記の全部抹消を求めることができる。
甲名義の不動産につき乙,Yが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合において甲の共同相続人であるXが上記登記の全部抹消を求めることの可否
民法249条,民法898条,不動産登記法66条,不動産登記法68条
判旨
実体関係に適合しない単独名義の所有権移転登記につき、更正登記による是正が登記の同一性を欠き認められない場合には、他の共有者は自己の共有持分権に基づき、当該登記の全部抹消を請求することができる。
問題の所在(論点)
数次の相続を経てなされた実体関係に合致しない単独名義の移転登記に対し、他の共有者が共有持分権に基づき、更正登記ではなく登記の全部抹消を請求することの可否。
規範
更正登記は、登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に、登記の同一性を維持しつつ既存登記の一部を訂正補充するものである。したがって、更正によって登記名義人が異なり、または登記の個数が増えるなど、登記の同一性を欠く場合には更正登記は認められない。この場合、他の共有者は共有持分権に基づく妨害排除請求として、当該登記の全部抹消を請求でき、義務者が共有持分を有することは請求を妨げる事由とならない。
重要事実
Dが所有していた土地につき、Dの死亡後、共同相続人の一人であるFの子(被上告人)が、DからF、Fから被上告人へと順次相続された旨の単独名義での所有権移転登記(本件登記)を経了した。これに対し、他の相続人の一人である上告人が、遺産分割協議は成立しておらず本件登記は無効であると主張して、共有持分権に基づき登記の全部抹消を求めた。原審は、被上告人も相続人として持分を有する以上、全部抹消は認められず更正登記によるべきとした。
事件番号: 平成11(オ)773 / 裁判年月日: 平成12年1月27日 / 結論: その他
甲名義の不動産につき、甲から乙、乙から丙への順次の相続を原因として直接丙に対する所有権移転登記がされているときに、右登記を甲の共同相続人丁及び乙に対する所有権移転登記並びに乙から丙に対する持分全部移転登記に更正することはできない。
あてはめ
本件登記を実体に合わせるには、登記名義人を「被上告人が含まれないDの相続人」とする登記と、「Fの相続人」とする登記に更正する必要がある。しかし、これは登記名義人が異なるだけでなく、登記の個数も増えることになるため、更正前後の同一性を欠き、更正登記による是正は許されない。更正登記ができない以上、本件登記は実体関係と異なる不実の登記であり、上告人は共有持分権の保存行為としてその全部抹消を請求し得る。被上告人が一部持分を有していても、全部抹消を妨げるものではない。
結論
遺産分割協議の成立が認められない限り、共有持分権を有する上告人は、被上告人に対し、本件登記の全部抹消登記手続を求めることができる。
実務上の射程
共有不動産について、一部の共有者が単独所有名義の登記をしている場合、原則として他の共有者は「自己の持分を超える部分」の抹消(更正)しか請求できない(最判昭38.2.22)。しかし、本判決は、更正登記の限界(同一性の喪失)に直面する場合には、例外的に全部抹消請求が認められることを示した。答案上は、登記の同一性の有無を検討した上で、更正登記が不可能な事案であれば全部抹消請求を肯定する論理として活用する。
事件番号: 昭和56(オ)817 / 裁判年月日: 昭和59年4月24日 / 結論: その他
共有者の一部の者の名義に所有権移転登記又は所有権移転請求権仮登記がされている場合に、他の共有者が妨害排除として右一部の者に対して請求することができる登記手続は、自己の持分についての一部抹消(更正)登記手続に限られる。
事件番号: 昭和37(オ)396 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
第一審判決主文に民訴法第一九四条にいう明白な誤謬がある場合、控訴裁判所が控訴棄却の判決をするにあたり判決の理由中に理由を示し主文において右誤謬を更正しても違法ではない。
事件番号: 昭和42(オ)1472 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 破棄差戻
一個の債権担保のため、甲乙丙不動産につき停止条件付代物弁済契約がされるとともに、所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合において、債権者が甲不動産を代物弁済により所有権を取得し、それに基づいて所有権移転登記を経由したにすぎないときは、その後乙不動産につき所有権移転請求権保全の請求権を譲り受けた者がした代物弁済による…
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。