甲は、乙が代表者である丙組合と丁会社との紛争解決などのために、戊に合計九〇万円を融資し、その債務担保のため本件土地につき、戊から譲渡担保の設定を受け、一方、乙は、右のような事情から右担保権を取得した甲のために、その権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄したものであるなど判示事実関係のもとにおいては、乙は、その後戊との間で右放棄を合意解約(実質的には消滅した根抵当権を復活させる合意というべきである。)することにより、根抵当権の負担のない担保権を取得するに至つた甲の権利を害することは許されず、右合意解約が正当な理由に基づくなど特段の事情のないかぎり、甲が右担保権の取得につき登記を有しないことを理由に右合意解約を主張することは著しく信義に反するものであつて、乙は甲の右担保権の取得につき登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者にあたらないものと解するのが相当である。
登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例
民法177条
判旨
不動産の譲渡担保権者が登記を欠く場合であっても、その権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄した者が、正当な理由なく後からその放棄を合意解約して根抵当権を復活させることは、信義則に反し許されない。このような立場にある者は、民法177条の「第三者」にあたらない。
問題の所在(論点)
権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄した者が、後にその放棄を合意解約して権利を復活させた場合、当該不動産の譲渡担保権の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」(民法177条)にあたるか。
規範
不動産の物権変動について登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する者は、民法177条の「第三者」として保護される。しかし、権利の取得を承認し、あるいはその権利行使を妨げないことを約した者が、後にその権利を害する行為に出ることは信義則に反し、正当な理由に基づくなど特段の事情がない限り、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」にはあたらない。
事件番号: 昭和42(オ)353 / 裁判年月日: 昭和44年1月16日 / 結論: 破棄差戻
一、抵当権の放棄は、その当時の目的物の所有者に対する意思表示によつて、その効力を生ずる。 二、根抵当権設定者である会社の代表者甲が、目的物の譲受人乙を代理して根抵当権者丙の根抵当権放棄の意思表示を受領した場合において、その被担保債権の債務者である協同組合の代表者丁が、甲とともに丙との交渉にあたり、その際右意思表示がされ…
重要事実
DはFに対し土地に根抵当権を設定していた。上告人は、Fからこの根抵当権譲渡を受けたが、Dが被上告人から融資を受け土地を譲渡担保に供する際、被上告人のために本件根抵当権を放棄する旨をDと合意した。これにより被上告人は根抵当権の負担のない譲渡担保権を取得したが、登記は未了であった。その後、上告人は被上告人の仮登記を了承しながら、Dらとの間で先の根抵当権放棄を合意解約し、消滅した根抵当権を復活させた上で、被上告人に対し登記の欠缺を主張した。
あてはめ
上告人は、被上告人がDらに融資を行い譲渡担保権を取得した事情を熟知しており、被上告人のためにその障害となる根抵当権を自ら放棄した立場にある。それにもかかわらず、後に放棄を合意解約して根抵当権を復活させ、被上告人の権利を害することは、特段の事情がない限り著しく信義に反する。したがって、上告人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者とはいえない。また、詐害行為の主張については、訴えの方法によらず抗弁で主張することは許されない。
結論
上告人は民法177条の第三者にあたらず、被上告人は登記がなくても、自己の譲渡担保権が根抵当権の負担を受けないことを上告人に対抗できる。
実務上の射程
背信的悪意者排除の法理の変奏といえる判例である。単なる悪意を超え、一度は相手方の権利を認めて協力的な態度を示した者が、後に豹変して登記の欠缺を突く行為を「信義則」によって封じる構成をとる。答案上は、177条の「第三者」の解釈において、信義則(民法1条2項)を適用する際の具体的事実の評価として活用すべきである。
事件番号: 昭和43(オ)732 / 裁判年月日: 昭和45年11月19日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由した…
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
事件番号: 昭和38(オ)412 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
不動産所有権を取得したが本登記手続を経ない仮登記権利者は、右不動産上の抵当権者に対し被担保債務が弁済されたことを理由に当該抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し得ない。
事件番号: 昭和43(オ)892 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
甲所有の土地建物が乙に贈与されたが、その登記が未了のため、乙が甲を相手に処分禁止の仮処分をしている場合において、不動産周旋業者で甲および乙と永年交際し右建物を賃借している丙が、土地建物の所有権の帰属につき甲と乙が係争中であることを知つているばかりでなく、甲が乙を欺罔して右仮処分の執行を取り消させ、土地建物が乙名義になる…