一、抵当権の放棄は、その当時の目的物の所有者に対する意思表示によつて、その効力を生ずる。 二、根抵当権設定者である会社の代表者甲が、目的物の譲受人乙を代理して根抵当権者丙の根抵当権放棄の意思表示を受領した場合において、その被担保債権の債務者である協同組合の代表者丁が、甲とともに丙との交渉にあたり、その際右意思表示がされた事実を知りながら、その後に右根抵当権を被担保債権とともに譲り受けたときは、丁は、特段の事情がないかぎり、いわゆる背信的悪意者として、根抵当権の放棄による消滅についての登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないものと解するのが相当である。
一、抵当権放棄の相手方 二、登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例
民法2編10章3節,民法177条
判旨
根抵当権の消滅を知りながらこれを譲り受けた者が、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる特段の事情がある場合、その者は民法177条の「第三者」に該当しない。
問題の所在(論点)
根抵当権の消滅(放棄)を、登記なくしてその後の譲受人に対抗できるか。特に、消滅の事実を知って譲り受けた者が、民法177条の「第三者」に含まれるか。
規範
不動産の実体上の物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至った者において、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう「第三者」にあたらない。
重要事実
根抵当権者D社は、債務者の代表者である被上告人と、設定者の代表者Fに対し、根抵当権放棄の意思表示を事実上行った。しかし当時、目的物件は既に上告人に譲渡され登記も備わっていた。上告人は、Fに代理権を授与して放棄の意思表示を受領したと主張。その後、根抵当権の消滅登記がされない間に、被上告人がD社から本件根抵当権を被担保債権と共に譲り受け、登記の欠缺を理由に根抵当権の消滅を否定した。
事件番号: 昭和44(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和45年2月24日 / 結論: 棄却
甲は、乙が代表者である丙組合と丁会社との紛争解決などのために、戊に合計九〇万円を融資し、その債務担保のため本件土地につき、戊から譲渡担保の設定を受け、一方、乙は、右のような事情から右担保権を取得した甲のために、その権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄したものであるなど判示事実関係のもとにおいては、乙は、その後戊との間…
あてはめ
被上告人は被担保債権の債務者の代表者であり、Fと共にD社と交渉して根抵当権放棄の意思表示を事実上受けている。もしFが上告人を代理していたならば、被上告人は根抵当権が有効に放棄・消滅した事実を知りながらこれを譲り受けたものと推測される。このような立場にある者が、譲受けの動機・経緯等において特段の事情がない限り、登記の欠缺を理由に消滅を否定することは信義に反し、正当な利益を有する「第三者」とはいえない。
結論
被上告人が背信的悪意者に該当する場合、上告人は根抵当権の消滅(放棄)を、登記なくして被上告人に対抗することができる。
実務上の射程
物権変動の「消滅」の場面においても背信的悪意者排除の理屈が適用されることを明示した点に意義がある。答案上は、単なる悪意にとどまらず、交渉経緯や当事者の地位といった具体的還元要素から「信義に反する(背信性)」を認定する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和38(オ)412 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
不動産所有権を取得したが本登記手続を経ない仮登記権利者は、右不動産上の抵当権者に対し被担保債務が弁済されたことを理由に当該抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し得ない。
事件番号: 昭和43(オ)892 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
甲所有の土地建物が乙に贈与されたが、その登記が未了のため、乙が甲を相手に処分禁止の仮処分をしている場合において、不動産周旋業者で甲および乙と永年交際し右建物を賃借している丙が、土地建物の所有権の帰属につき甲と乙が係争中であることを知つているばかりでなく、甲が乙を欺罔して右仮処分の執行を取り消させ、土地建物が乙名義になる…
事件番号: 昭和36(オ)513 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲受人等の第三者が民法177条の「第三者」に該当しないとされるためには、単に権利の存在を知っているだけでは足りず、相手方の登記の欠如を主張することが信義則(民法1条2項)に反すると認められるほどの強い「害意」を有する背信的悪意者であることを要する。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本…
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。