判旨
破産者が詐害の意思がないと誤信して抵当権を設定した場合でも、法律の誤解に基づく判断のみで直ちに詐害意思を否定することはできないが、受益者が設定時及び登記時に債権者を害することを知らなかったときは、否認権は行使できない。
問題の所在(論点)
債務者が「先取特権があるため抵当権を設定しても他の債権者を害さない」と法律上誤解して担保提供を行った場合、詐害意思は否定されるか。また、受益者が善意である場合に否認権行使は認められるか。
規範
旧破産法72条1号(現行破産法160条1項1号)の詐害行為否認において、債務者の「詐害の意思」の有無は、法律の誤解に基づく主観的判断のみによって直ちに否定されるものではない。また、同法72条4号(現行162条1項)等の規定に基づき、受益者が行為時において破産債権者を害する事実、あるいは支払停止等の事実を知らなかった場合には、否認権の行使は認められない。
重要事実
破産会社Dは、昭和25年7月に支払停止、8月に破産宣告を受けた。Dは同年2月頃から営業不振で債務超過状態にあり、7月5日に被上告人との間で本件建物の抵当権設定契約を締結した。Dの代表者Eは、被上告人が建物の建築主であり工事残代金の先取特権を有するため、抵当権を設定しても他の債権者を害さないと信じていた。しかし、実際には工事着手前の登記(民法338条1項)がなく、先取特権は成立していなかった。一方、受益者(被上告人)は、抵当権設定及び8月8日の登記時において、支払停止や破産申立ての事実、及び債権者を害することを知らなかった。
あてはめ
Dの代表者Eが、先取特権の成立要件を誤解し、他の債権者を害さないと判断して抵当権を設定した点について、原審がこれをもって直ちに詐害意思を否定したのは理由不備といえる。工事完了後に登記をしても先取特権の効力は保存されないからである。しかし、受益者である被上告人は、抵当権設定契約時およびその登記完了時(8月8日)において、Dの支払停止や破産申立ての事実を認識しておらず、債権者を害することを知らなかったと認められる。この場合、破産法上の各否認要件(現行法160条、162条等に相当)のうち、受益者の悪意という要件を欠くことになる。
結論
受益者が行為時に債権者を害する事実を知らなかった以上、破産法に基づき本件抵当権設定及びその登記を否認することはできない。
事件番号: 昭和36(オ)275 / 裁判年月日: 昭和38年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産法上の詐害行為取消権における「破産者が破産債権者を害することを知りて」とは、単に他の債権者を害する認識があれば足り、加害の意図や意欲までは不要である。また、債務超過かつ資金繰り困難な状況下で、特定債権者の支払猶予の代償として唯一の安定した資産に担保を設定する行為は、原則として詐害行為に該当する…
実務上の射程
債務者の詐害意思の有無に関する主観的な弁解(法律の誤解)を容易に認めない一方で、受益者の善意が証明されれば否認を阻止できるという、現行法の「受益者の善意による抗弁」と同様の構成を採る。答案上は、債務者の詐害意思だけでなく、各否認類型に応じた受益者の主観的要件(悪意)の検討を欠かさないようにするための指針となる。
事件番号: 昭和46(オ)912 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 棄却
破産法七二条一号による否認権行使の場合において、受益者が同号但書により否認を免れうるためには、その行為の当時破産債権者を害することを知らなかつたことが認められれば足り、その知らないことにつき過失がなかつたかどうかは問わないものと解すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)87 / 裁判年月日: 昭和33年10月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権のない者が勝手に本人の実印を持ち出して委任状を偽造し、消費貸借契約や抵当権設定登記を行っても、本人がそれを適法な代理権に基づくものと認めた事情や、特段の表見代理の成立が認められない限り、その効果は本人に帰属しない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dとの間でりんごの取引を行っていたが、Dが生…