債務の支払猶予の代償として根抵当権を設定した行為が破産法第七二条一号によつて否認できるとされた事例。
判旨
破産法上の詐害行為取消権における「破産者が破産債権者を害することを知りて」とは、単に他の債権者を害する認識があれば足り、加害の意図や意欲までは不要である。また、債務超過かつ資金繰り困難な状況下で、特定債権者の支払猶予の代償として唯一の安定した資産に担保を設定する行為は、原則として詐害行為に該当する。
問題の所在(論点)
破産法上の詐害行為取消権における「詐害の意思」の意義。具体的には、特定の債権者から支払猶予(債務の棚上げ)を得て事業継続を図る目的がある場合に、単なる加害の認識を超えた「意図・意欲」が必要とされるか、また、支払猶予という対価を得て行われた担保設定が詐害行為に該当するか。
規範
1. 破産法160条1項1号(旧72条1号)にいう「破産者が破産債権者を害することを知りて」とは、単に加害の認識(詐害認識)があれば足り、積極的に他の債権者を害しようとする「加害の意図」や「意欲」をもつことまでは必要としない。 2. 債務超過の状態で、総債権者の共同担保となるべき重要な資産について特定の債権者に担保権を設定する行為は、たとえ債権の支払猶予(棚上げ)という対価的利益を得る目的があったとしても、他の債権者の共同担保を減少させるものである以上、詐害行為に該当し得る。
重要事実
破産会社は、不振により実質約3000万円の欠損を抱え、債務超過かつ極度の資金繰り困難な状況にあった。破産会社は、債権者である上告人から750万円の支払猶予を受ける代償として、唯一の安定した資産である本件土地建物(時価約1000万円)に対し、全債権1500万円を被担保債権とする根抵当権を設定した。他方、破産会社は他の債権者からの担保設定要求は拒絶していた。破産管財人は本件設定行為を詐害行為として取り消した。
あてはめ
1. 破産会社は、当時債務超過であり、唯一の安定資産である本件不動産を担保に供すれば他の債権者の配当原資が減少することを認識していた。他の債権者からの担保要求を拒否しつつ、上告人のみに担保を提供した事実は、他の債権者を害する認識を裏付ける。 2. 上告人は「事業立直しのために支払猶予を得る必要があり、加害の意図はなかった」と主張するが、規範のとおり意図までは不要である。 3. 上告人自身、破産会社の立直しが困難であることを認識しつつ、最悪の事態に備えて担保を強硬に要求しており、債務者側にも加害の認識があったと認められる。支払猶予という代償があったとしても、総債権者の共同担保を減少させる結果に変わりはない。
事件番号: 昭和46(オ)912 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 棄却
破産法七二条一号による否認権行使の場合において、受益者が同号但書により否認を免れうるためには、その行為の当時破産債権者を害することを知らなかつたことが認められれば足り、その知らないことにつき過失がなかつたかどうかは問わないものと解すべきである。
結論
本件根抵当権設定契約は、破産者が債権者を害することを知ってした行為に該当し、取り消し得る。上告を棄却する。
実務上の射程
詐害行為取消権(160条1項1号)の主観的要件の解釈を示す重要判例である。事業継続を目的とした支払猶予の取得という「正当に見える動機」があっても、客観的に共同担保を減少させ、かつその認識がある限り、詐害性は否定されない。答案では、債務者の窮状(債務超過等)と資産の重要性から詐害認識を認定し、加害の意図までは不要である旨を論述する際に用いる。
事件番号: 昭和27(オ)1061 / 裁判年月日: 昭和31年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が詐害の意思がないと誤信して抵当権を設定した場合でも、法律の誤解に基づく判断のみで直ちに詐害意思を否定することはできないが、受益者が設定時及び登記時に債権者を害することを知らなかったときは、否認権は行使できない。 第1 事案の概要:破産会社Dは、昭和25年7月に支払停止、8月に破産宣告を受け…
事件番号: 昭和36(オ)15 / 裁判年月日: 昭和38年10月10日 / 結論: その他
売買一方の予約に基づいて売買本契約が成立した場合は、売買予約締結当時を基準として詐害行為の要件の具備の有無を判断すべきである。