破産法七二条一号による否認権行使の場合において、受益者が同号但書により否認を免れうるためには、その行為の当時破産債権者を害することを知らなかつたことが認められれば足り、その知らないことにつき過失がなかつたかどうかは問わないものと解すべきである。
破産法七二条一号但書と受益者の無過失の要否
破産法72条1号但書
判旨
破産法における詐害行為否認(現行法160条1項1号)において、受益者が否認を免れるための要件である「破産債権者を害することを知らなかった」ことにつき、善意であれば足り、過失の有無は問わない。
問題の所在(論点)
破産法上の詐害行為否認における受益者の「善意」の解釈に関し、行為当時に破産債権者を害することを知らなかったことに加え、無過失であることまで必要か。
規範
詐害行為否認(旧破産法72条1号、現行160条1項1号)の但書により否認を免れるためには、受益者が行為当時、破産債権者を害する事実を知らなかった(善意であった)ことが認められれば足り、その不知について過失があったか否かは問わない。
重要事実
判決文からは詳細な具体的事実は不明であるが、破産者が行った行為に対し、破産管財人が旧破産法72条1号(現行160条1項1号)に基づき否認権を行使した。これに対し、受益者が同条但書に基づき、詐害の事実を知らなかったとして抗弁を主張した事案である。上告人は、受益者が不知について無過失であることまで必要であると主張して上告した。
事件番号: 昭和36(オ)275 / 裁判年月日: 昭和38年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産法上の詐害行為取消権における「破産者が破産債権者を害することを知りて」とは、単に他の債権者を害する認識があれば足り、加害の意図や意欲までは不要である。また、債務超過かつ資金繰り困難な状況下で、特定債権者の支払猶予の代償として唯一の安定した資産に担保を設定する行為は、原則として詐害行為に該当する…
あてはめ
破産法(旧法72条1号、現行160条1項1号)の文言上、否認を免れるための要件は「受益者がその行為の当時破産債権者を害することを知らなかつた」こととされている。したがって、受益者が行為の時点で詐害の事実を認識していなかったという事実が認定されれば、それだけで但書の要件を充足すると解される。過失の有無を要件として加えることは、法の文言を超えた解釈となるため、不知について過失があったとしても、なお否認を免れることができると解するのが相当である。
結論
受益者が詐害の事実を知らなかった事実に過失があったとしても、善意である限り否認を免れることができる。
実務上の射程
現行破産法160条1項1号但書の「受益者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったとき」の解釈を確定させた重要な判例である。司法試験の答案上では、受益者の抗弁(否認権行使を阻む事由)として「善意」を論じる際、過失の有無を検討する必要がないことを明示するために用いる。
事件番号: 昭和27(オ)1061 / 裁判年月日: 昭和31年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が詐害の意思がないと誤信して抵当権を設定した場合でも、法律の誤解に基づく判断のみで直ちに詐害意思を否定することはできないが、受益者が設定時及び登記時に債権者を害することを知らなかったときは、否認権は行使できない。 第1 事案の概要:破産会社Dは、昭和25年7月に支払停止、8月に破産宣告を受け…
事件番号: 昭和49(オ)181 / 裁判年月日: 昭和49年12月12日 / 結論: 棄却
民法四二四条所定の詐害行為の目的たる権利の転得者から悪意で更に転得した者は、たとえその前者が善意であつても、同条に基づく債権者の追及を免れることができない。
事件番号: 昭和42(オ)607 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 棄却
無能力者であることを黙秘することは、無能力者の他の言動などと相まつて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには、民法二〇条にいう「詐術」にあたるが、黙秘することのみでは右詐術にあたらない。