破産法七四条が対抗要件の否認について規定した趣旨は、対抗要件の充足行為も、本来は、同法七二条の一般規定によつて否認の対象となりうべきものであるが、原因行為に否認の理由がないかぎり、できるだけ対抗要件を具備させて当事者の所期の目的を達成させることとし、一定の要件をみたす場合にのみ、とくにこれを否認しうることとしたものと解すべきである。
破産法七四条の法意
破産法74条
判旨
破産管財人が原因行為の否認(破産法160条等)を主張する場合、弁論の全趣旨から対抗要件の否認(同164条)の要件を充たす事情が表れているときは、裁判所は釈明権を行使して主張を整理させるべきである。
問題の所在(論点)
破産管財人が原因行為(譲渡行為自体)の否認を主張している場合において、対抗要件(登記)の否認の要件を満たす事実が弁論に現れているとき、裁判所は釈明権を行使して対抗要件否認の成否を判断すべきか。
規範
不動産の物権変動は対抗要件を具備しない限り第三者に対抗できず、その充足行為も債権者を害し得るため、本来は詐害行為取消し等の一般規定により否認の対象となり得る。しかし、対抗要件は既に着手された権利変動を完成させる行為であるため、破産法は一般の否認規定とは別に、特に一定の要件(支払停止後かつ悪意等)を満たす場合に限り否認し得るとの個別規定(現行法164条、旧法74条)を設けた。したがって、原因行為の否認を訴求する管財人の主張に、対抗要件否認の要件を満たす事情が含まれるならば、管財人には後者を予備的にでも主張する意思があると解するのが相当であり、裁判所は釈明権を行使して主張・立証を促すべきである。
重要事実
破産者D及びEは、多額の債務を抱え債権者の追及が激しくなった時期(昭和39年5月・6月)に、不動産を代物弁済として被上告人Bに譲渡し登記を経た。破産管財人である上告人は、右譲渡行為が破産法72条1号(現行160条1項1号)の詐害行為に当たるとして登記の抹消を求めた。原審は、譲渡の合意自体は数年前(昭和37年等)になされており原因行為は否認できないとし、かつ、管財人が破産法74条(現行164条1項)所定の対抗要件の否認を明示的に主張していないとして、登記の否認について判断しなかった。
あてはめ
本件では、登記が原因行為から15日以上経過してなされたことは明白である。また、債務者の家出後に急遽登記がなされたという事情から、被上告人が支払停止の事実を知って登記を備えた(悪意)との要件も、弁論の全趣旨に現れているといえる。加えて、第一審では予備的に対抗要件否認まで判断されていた。このような状況下で、原因行為が否認できないと判断した原審が、対抗要件否認について釈明権を行使し当事者の注意を喚起することなく、単に主張がないとして判断を避けたことは、釈明権行使の誤り及び審理不尽の違法がある。
結論
釈明権を行使して対抗要件の否認についても判断すべきであり、これを怠った原判決は破棄を免れない。事件を原審に差し戻す。
実務上の射程
原因行為(契約等)と対抗要件具備行為(登記等)は別個の否認対象となるが、管財人の攻撃防御の文脈では一体として扱われることが多い。答案上は、否認権の要件検討において、原因行為の否認が認められない場合の「予備的な構成」として、164条の対抗要件否認の検討を漏らさないための根拠として有用である。また、裁判所の釈明義務の範囲を画する民事訴訟法上の重要判例としても位置付けられる。
事件番号: 昭和46(オ)242 / 裁判年月日: 昭和49年6月27日 / 結論: 棄却
破産者の行為が否認されたことを理由に右行為を原因とする登記を原状に回復するには、破産法一二三条の否認の登記によるべきである。
事件番号: 昭和27(オ)1061 / 裁判年月日: 昭和31年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が詐害の意思がないと誤信して抵当権を設定した場合でも、法律の誤解に基づく判断のみで直ちに詐害意思を否定することはできないが、受益者が設定時及び登記時に債権者を害することを知らなかったときは、否認権は行使できない。 第1 事案の概要:破産会社Dは、昭和25年7月に支払停止、8月に破産宣告を受け…