一 否認権の行使を受けた相手方は、否認された行為のあつたのちに破産者に対する債権がすべて消滅し、総破産債権が現存していないことを主張して否認権行使の効果を否定することはできない。 二 破産法七二条一号所定の否認権は、総破産債権者につき詐害行為取消権の消滅時効が完成しても、消滅しない。
一 否認権行使の相手方が否認された行為のあつたのちに総破産債権が不存在となつたことを主張して否認権行使の効果を否定することの可否 二 総破産債権につき詐害行行為取消権の消滅時効が完成した場合と破産法七二条一号所定の否認権の消長
破産法72条1号,破産法85条,民法426条
判旨
否認権の行使を受けた相手方は、総破産債権の不存在を主張して否認権の効果を否定することはできず、また詐害行為取消権の消滅時効が完成していても、破産法上の否認権の時効期間内であればその行使は妨げられない。
問題の所在(論点)
1. 否認権行使の相手方は、総破産債権の不存在を抗弁として主張できるか。 2. 個別の債権者の詐害行為取消権が時効消滅している場合、これを基礎とする否認権も消滅するか(否認権の行使期間の独自性)。
規範
1. 破産管財人が破産債権者に分配すべき破産財団の確保のために否認権を行使している以上、相手方は、総破産債権が現存しないことを主張して否認権行使の効果を否定することはできない。 2. 詐害行為取消と同趣旨の否認(破産法160条1項相当)であっても、否認権は総債権者の公平な満足を図るための独立の権利であり、その行使期間は破産法所定の期間(同法176条相当)に従う。したがって、個別の破産債権者について詐害行為取消権の時効が完成していても、否認権が当然に消滅するわけではない。
重要事実
破産管財人が、破産者の行為について詐害行為否認(旧破産法72条1号)を行使した事案。否認権を行使された相手方は、①否認された行為の後に破産者の債権がすべて消滅し、総破産債権が現存しないこと、および②総破産債権者について民法上の詐害行為取消権の消滅時効が完成していることを理由に、否認権行使は認められないと主張して争った。
あてはめ
1. 破産手続は総債権者の公平な満足を図る一般執行の手続である。破産債権は届出・調査・確定訴訟等を経て確定されるべきものであり、届出期間を経過した債権者も当然に権利を失うわけではない。このような慎重な手続的性格に鑑みれば、破産管財人が財団確保のために否認権を行使している最中に、相手方が実体上の債権不存在を主張して手続を阻害することは許されない。 2. 否認権の行使期間について、破産法は民法の消滅時効とは別に独自の規定(旧破産法85条)を設けている。これは破産手続の円滑な進行を目的とするものであり、一号否認(詐害行為否認)についてもこの規定が適用されるため、民法上の時効とは無関係に判断されるべきである。
結論
相手方の主張はいずれも採用できず、否認権の行使は有効である。
実務上の射程
破産法上の否認権が民法上の詐害行為取消権から独立した独自の制度であることを示す判例である。答案上は、否認権の行使要件として「破産債権の存在」を厳格に要求すべきか、あるいは相手方からの反論として「債権不存在」が認められるかという文脈で活用できる。また、時効期間に関しても、民法ではなく破産法の規定が排他的に適用される根拠として引用可能である。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。