有価証券に表章された金銭債権の債務者は,同債権を受働債権として相殺をするに当たり,同有価証券を占有することを要しない。
有価証券に表章された金銭債権を受働債権として相殺をするに当たって同有価証券を占有することの要否
民法505条1項,民法506条1項
判旨
有価証券に表章された金銭債権の債務者が、当該債権を受働債権として相殺を行う際、二重払いの危険を自ら甘受する以上、有価証券の占有取得を要しない。そのため、占有取得の原因行為である担保供与が否認されたとしても、相殺の効力は妨げられない。
問題の所在(論点)
有価証券(金融債券)に表章された債権を受働債権として相殺する場合、債務者による証券の占有取得が相殺の有効要件となるか。また、占有取得の原因行為(担保供与)が否認された場合に相殺の効力に影響するか。
規範
有価証券に表章された金銭債権の債務者は、自らに対する金銭債権を自働債権とし、当該有価証券に表章された債権を受働債権として相殺をするにあたり、有価証券の占有を取得することを要しない。有価証券の呈示(占有)を要するのは債務者の二重払い防止を目的とするものであり、債務者がその危険を自ら甘受して相殺することは許容されるからである。
重要事実
銀行である上告人が、顧客Dから担保として株式、金融債券、定期預金の供与を受けた(本件担保供与)。その後、上告人はDに対する貸付債権を自働債権、本件債権(金融債券)および預金債権を受働債権として相殺し、株式を処分して弁済に充てた。Dの破産後、破産管財人である被上告人が担保供与を否認し、相殺の無効を主張して価額の償還等を求めた。
あてはめ
本件金融債券は有価証券であるが、債務者である上告人が二重払いの危険を承知の上で相殺を行う以上、証券の占有は相殺の効力発生要件ではない。したがって、占有取得の根拠となった本件担保供与が否認されたとしても、それは上告人が証券を占有し続ける権限を失わせるにとどまり、既に有効になされた相殺の効力自体を遡及的に否定する理由にはならない。預金利息についても同様に相殺が可能である。
結論
上告人による本件債権を受働債権とする相殺は有効であり、債権は消滅した。したがって、否認権行使に基づく償還請求は、相殺された債券・預金分については認められず、株式の処分価額相当分に限って認容される。
実務上の射程
否認権と相殺の交錯場面において、相殺の有効性が証券の占有という外形的事実に依存しないことを示した。答案上は、否認権行使によって占有の権原が遡及的に消滅する場合でも、相殺の要件(相殺適状)を具備していれば、対立関係にある債権債務の決済機能が優先される旨を論じる際に活用できる。
事件番号: 平成13(受)1797 / 裁判年月日: 平成16年7月16日 / 結論: 棄却
債権譲渡人について支払停止又は破産の申立てがあったことを停止条件とする債権譲渡契約に係る債権譲渡は,破産法72条2号に基づく否認権行使の対象となる。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。