銀行が、買戻の特約を含む手形割引契約に基づき手形を割引いた後、割引依頼人の支払停止を理由として同人に対し該手形の買戻請求をした場合に取得した割引依頼人に対する買戻代金債権は、破産法第一〇四条第三号但書にいう「支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リタル時ヨリ前ニ生シタル原因ニ基」づき取得したものと解すべきである。
手形割引依頼人の支払停止を理由にされた手形買戻請求と破産法第一〇四条第三号但書。
破産法104条
判旨
銀行実務における手形買戻請求権は、割引依頼者の信用悪化を条件とする慣習に基づき成立し、支払停止後に当該権利を行使して取得した債権であっても、原因が支払停止前にある限り破産法上の相殺禁止規定には抵触しない。
問題の所在(論点)
1. 手形割引契約において、明文の規定がなくとも慣習に基づき買戻請求権が認められるか。 2. 支払停止後に買戻請求権を行使して取得した債権による相殺は、破産法上の「支払の停止があったことを知った時より前に生じた原因に基づき取得したとき」に該当し、許容されるか。
規範
1. 民法92条に基づき、銀行実務において割引手形が不渡りとなった場合や割引依頼者の信用が悪化した場合には、銀行は買戻請求を行うことができ、依頼者はこれに応じる義務があるという慣習は、特段の反対の意思表示がない限り契約の内容となる。 2. 破産法上の相殺禁止(現行破産法72条1項3号、旧法104条3号)の例外である「支払の停止があったことを知った時より前に生じた原因」とは、債権取得の直接の契機となる意思表示が支払停止後であっても、その根拠となる基本約定等の法的基礎が支払停止前に存在していれば足りる。
重要事実
銀行(被上告人)は、Dとの間で昭和32年2月に手形割引契約を締結し、手形を割り引いた。その後、同年4月にDが支払停止の状態に陥ったため、銀行はDに対し、支払停止を理由として本件手形の買戻請求権を行使し、これによって生じた買戻代金債権を自働債権として、Dの定期預金債権と相殺した。Dが破産したため、破産管財人(上告人)が、当該債権は支払停止を知った後に取得されたものであり相殺は禁止されるべきであるとして争った。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
あてはめ
1. 銀行実務における慣習によれば、割引依頼者の信用悪化時には買戻請求権が発生すると認められ、本件契約の内容となっていた。 2. 被上告人が取得した手形金支払請求権(買戻債権)は、買戻請求権の行使によって具体化するものであるが、その法的根拠は支払停止前の昭和32年2月に締結された手形割引契約にある。したがって、債権取得の「原因」は支払停止前に存したといえる。 3. よって、本件相殺は破産法上の相殺禁止の例外規定に該当し、有効である。
結論
手形割引契約に基づく買戻請求権の行使により取得した債権は、支払停止前の契約を原因とするものであり、これを用いた相殺は有効である。
実務上の射程
手形割引における買戻請求権の法的性質と、破産法上の「前の原因」の解釈を示す。銀行実務における相殺の期待権を保護する極めて重要な判例であり、答案上は相殺禁止の抗弁に対する再抗弁(例外規定の充足)の場面で活用する。
事件番号: 昭和41(オ)589 / 裁判年月日: 昭和44年1月16日 / 結論: その他
破産会社が買い戻した手形についてその手形金の支払を受けた場合において、その買戻代金の支払と手形金の受領とにより、破産財団に属する財産に価値の減少をきたさないときは、右買戻代金の支払について、破産法七二条による否認権を行使することは許されない。
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…