一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかならない。
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合と破産法第七三条第一項の類推適用の有無 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」と「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」の意義
破産法73条,破産法72条,手形法43条,手形法53条,手形法777条1項,手形法77条1項
判旨
手形割引に伴う融資債務の弁済が否認権の対象となる場合において、振出人でない破産者が行った手形買戻しや支払には、旧破産法73条1項(現行174条)の適用・類推適用の余地はない。同条項の保護対象は、振出人による支払等により遡求権の行使機会を失った手形所持人に限定される。
問題の所在(論点)
手形割引依頼人(振出人ではない)である破産者が、手形の買戻しや支払を行った場合、旧破産法73条1項(現行174条1項)が適用または類推適用され、否認権の行使が制限されるか。
規範
旧破産法73条1項(現行174条1項)にいう「債務者の1人または数人に対する手形上の権利」とは、破産者に対する遡求権を指し、「手形の支払」とは約束手形においては振出人の支払を指す。したがって、振出人ではない破産者が手形の買戻しや実質的な支払を行った場合には、同条項を適用または類推適用して否認権の行使を制限することはできない。
重要事実
破産会社は、被上告銀行との間で手形割引の方法により融資(金銭消費貸借)を受けていた。破産会社は、第三者が振り出した約束手形を割り引いたが、その後、当該手形の買戻し、またはいわゆる支払行為(弁済)を行った。破産管財人(上告人)は、この弁済行為が否認権の対象であると主張した。原審は、銀行が支払等を受けたことで振出人に対する権利行使の機会を失ったことを理由に、旧破産法73条1項を類推適用して否認を認めなかった。
事件番号: 昭和33(オ)228 / 裁判年月日: 昭和36年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既存の債務を担保するために定期預金に質権を設定し、その後その預金が書き換え継続された場合、新たな担保供与とは認められないため、否認権(現行破産法160条等)の対象とはならない。 第1 事案の概要:破産者は、昭和26年8月に被上告銀行に対し、現在および将来の債務を担保するため、当時預入していた定期預…
あてはめ
旧破産法73条1項は、支払を受けなければ遡求権保全手続をとったであろう手形所持人を保護する趣旨である。本件において、支払を行ったのは振出人ではなく割引依頼人である破産会社である。この場合、銀行が受領した行為は、本質的には金銭消費貸借上の債務の弁済または手形の買戻しにすぎない。このような振出人以外による支払は、同条項が想定する「振出人による支払とそれによる遡求権の消滅」という場面には該当しない。したがって、銀行がその後に振出人への権利行使が困難になるとしても、同条項の適用範囲には含まれない。
結論
振出人でない破産会社による手形の支払や買戻しについては、旧破産法73条1項の適用も類推適用も認められない。したがって、当該行為が否認権の要件を満たす限り、否認の対象となり得る。
実務上の射程
手形割引が実質的に金銭消費貸借の担保目的で行われる実務において、否認権の特則(現行174条)の射程を「振出人(主たる債務者)による支払」に厳格に限定した。答案上は、割引依頼人の支払が否認権の対象となった際、相手方から174条の抗弁が出された場合の再抗弁として、本判例の規範(主たる債務者の支払への限定)を用いるべきである。
事件番号: 昭和37(オ)1353 / 裁判年月日: 昭和38年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者が債務者から提供された第三者振出の手形を銀行を通じて決済させ、貸金債権を回収した行為は、破産者による弁済行為とは評価されず、受益者において破産債権者を害する事実を知らなかった場合は否認の対象とならない。 第1 事案の概要:上告人(破産管財人)は、破産者Dが被上告会社に対して行った50万円の弁…
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
事件番号: 昭和62(オ)1083 / 裁判年月日: 平成2年7月19日 / 結論: 破棄自判
給与支給機関が、地方公務員等共済組合法一一五条二項に基づき、D組合の組合員である地方公務員の給与から未返済の貸付金に相当する金額を控除してこれを右組合に払い込む行為は、破産法七二条二号による否認の対象となる。