貸金債権担保のために差入れてあつた第三者振出の約束手形の振出人の手形金支払の事実が認められ、債務者たる破産者の弁済行為による債務消滅が認められないとして、否認権行使が認容されなかつた事例。
判旨
債権者が債務者から提供された第三者振出の手形を銀行を通じて決済させ、貸金債権を回収した行為は、破産者による弁済行為とは評価されず、受益者において破産債権者を害する事実を知らなかった場合は否認の対象とならない。
問題の所在(論点)
第三者振出の約束手形の決済による債権回収が、破産法上の弁済否認の対象となるか。また、受益者の悪意(破産債権者を害する事実の認識)の有無がどのように判断されるか。
規範
破産法上の否認権(詐害行為否認)が成立するためには、破産者の行為(またはそれと同視し得る行為)によって特定の債権者が利益を得、かつ、受益者がその行為の当時、破産債権者を害する事実(支払不能等)を知っていたことが必要である。第三者振出手形の決済による回収が、債務者の積極的な弁済行為に該当しない場合、受益者の悪意が認められない限り否認は認められない。
重要事実
上告人(破産管財人)は、破産者Dが被上告会社に対して行った50万円の弁済が否認対象であると主張した。しかし、実際には、被上告会社がDから貸金債権の担保として受け取っていた「協同組合E」振出の約束手形を、銀行預金から手形債権者として支払いを受ける形で決済し、回収したものであった。被上告会社は、内容証明郵便において「内入があった」旨の記載をしていたが、これは銀行からの入金通知をDに知らせる趣旨であった。
あてはめ
本件では、50万円の回収は破産者D自身の弁済行為によるものではなく、被上告会社が正当な手形債権者として手形債務者(協同組合E)の預金から支払いを受けたものである。また、証拠によれば、被上告会社は当時、他の破産債権者を害する事実を認識していなかったと認められる。内容証明の記載も、単に入金の事実を通知したに過ぎず、破産者による弁済を自白したものとは解釈できない。
結論
本件債権回収行為について、破産者による弁済行為は認められず、かつ被上告会社の受益時における悪意も否定されるため、否認権は行使できない。
実務上の射程
手形による債権回収が「破産者の行為」といえるか、あるいは単なる担保権の実行に準ずるものとして否認対象から外れるかを検討する際の指針となる。実務上は、弁済の主体性(破産者の行為性)と、受益者の主観的要件(悪意)の認定において、証拠(入金通知や内容証明等)の趣旨を厳密に解釈する姿勢を示している。
事件番号: 昭和32(オ)1143 / 裁判年月日: 昭和36年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が特定の債権者に対して行った弁済行為の否認において、その弁済原資となった財産売却の対象(営業権等)の特定が不十分であっても、弁済の事実自体に争いがなく、売却が弁済金入手の経緯に過ぎない場合は、判決を破棄すべき瑕疵には当たらない。 第1 事案の概要:破産者Dは、市場内の店舗等を現物出資して得た…
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
事件番号: 昭和59(オ)557 / 裁判年月日: 昭和63年10月18日 / 結論: 破棄自判
一 信用金庫法に基づいて設立された信用金庫は、商法上の商人には当たらない。 二 信用金庫取引約定書四条四項は、取引先において信用金庫に対し、取引先がその債務を履行しない場合に、信用金庫の占有する取引先の手形等の取立又は処分をする権限及び取立又は処分によつて取得した金員を取引先の債務の弁済に充当する権限を授与する趣旨であ…