一 破産者が強制執行を受けるについて害意ある加功をなした場合には、執行行為に基づく破産者の弁済は、破産法第七二条第一号によつて否認されうる。 二 破産法第七二条第一号による否認権行使においては、否認を免れようとする受益者がその行為の当時破産債権者を害することを知らなかつたことの立証責任を負う。
一 執行行為に基づく弁済の否認と破産法第七二条第一号の適用 二 破産法第七二条第一号による否認権行使における受益者の悪意の立証責任
破産法75条,破産法72条1号,民訴法258条
判旨
破産法における詐害行為否認において、破産者の悪意については破産管財人が立証責任を負うが、受益者の悪意(知情)の欠如については受益者側が立証責任を負う。
問題の所在(論点)
破産法上の詐害行為否認において、受益者が破産債権者を害する事実を知っていたこと(受益者の悪意)の立証責任は、破産管財人と受益者のいずれが負うか。
規範
破産法上の詐害行為否認(旧破産法72条1号、現行160条1項1号)において、破産管財人は破産者が「破産債権者を害することを知って」行為をしたこと(破産者の悪意)を立証する責任を負う。一方、同条ただし書の受益者の善意については、否認を免れようとする受益者側が「行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったこと」を立証する責任を負う。
重要事実
破産者が本件強制執行を受けるまでの間に、債権者を害する意図をもって加功した事実が認められる事案において、破産管財人が詐害行為否認権を行使した。受益者側は、受益者の知情(悪意)に関する立証責任は破産管財人にあると主張して争った。
あてはめ
本件において、破産者に債権者を害する意図(悪意)が認められる以上、否認権行使の要件は充足される。受益者がこれに対抗して否認を免れるためには、受益者自身において行為当時に害意がなかったことを立証しなければならない。受益者が知情の欠如を立証できない限り、否認権の行使は正当化される。
結論
受益者の知情に関する立証責任は受益者側にある。したがって、受益者が自己の善意を立証できない以上、破産管財人による否認権の行使は認められる。
実務上の射程
現行破産法160条1項1号ただし書の解釈として確立した判例である。答案上は、破産者の悪意(要件)と受益者の善意(抗弁)を区別し、立証責任の所在を明示する際に引用する。詐害行為否認の基本的枠組みを示す重要判例である。
事件番号: 昭和32(オ)1143 / 裁判年月日: 昭和36年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が特定の債権者に対して行った弁済行為の否認において、その弁済原資となった財産売却の対象(営業権等)の特定が不十分であっても、弁済の事実自体に争いがなく、売却が弁済金入手の経緯に過ぎない場合は、判決を破棄すべき瑕疵には当たらない。 第1 事案の概要:破産者Dは、市場内の店舗等を現物出資して得た…
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。