判旨
破産者が特定の債権者に対して行った弁済行為の否認において、その弁済原資となった財産売却の対象(営業権等)の特定が不十分であっても、弁済の事実自体に争いがなく、売却が弁済金入手の経緯に過ぎない場合は、判決を破棄すべき瑕疵には当たらない。
問題の所在(論点)
否認権行使の対象となった弁済行為の原資を捻出するための財産売却について、その目的物(営業権等)の認定が不十分であることが、判決を破棄すべき理由(理由不備等)に該当するか。破産法上の否認における「弁済行為」の認定と「原資入手経緯」の認定の関係が問題となる。
規範
破産法上の否認権(本件では偏頗弁済の否認)の行使において、否認の対象となるのは弁済行為そのものである。弁済原資を確保するための前段階の行為(財産処分等)における目的物の特定や認定に不十分な点があったとしても、それが単に弁済金入手の経緯を説明するにとどまり、当該弁済行為自体の存否や性質に影響を及ぼさない限り、判決の結論を左右する違法とはならない。
重要事実
破産者Dは、市場内の店舗等を現物出資して得た上告会社(株式会社組織)の株式3,300株に化体された営業権および備品一式を、Eに対し55万円で売却した。Dは、この売却代金55万円をもって上告会社に対する自己の債務を弁済した。破産管財人は、この弁済行為が他の債権者を害するものであるとして否認権を行使した。原審は、売却対象である「店舗、営業権、備品一式」の法的性質の判示が不明確であったが、弁済の事実は認めて否認を肯定した。上告人は、売却対象の特定が不十分であることを理由に判決の不備を主張して上告した。
あてはめ
原判決において、売却対象が株式に化体された権利か営業権そのものかの説示は不十分である。しかし、Dが市場内での一切の権利を55万円で売却したこと、およびその売得金をもって上告会社に弁済した事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨から認められる。否認の対象はあくまで「弁済行為」そのものであり、売却経緯は弁済金入手のプロセスに過ぎない。したがって、この点の説示不備は、否認権行使の適否という結論に影響を与える重大な瑕疵とはいえない。
結論
本件否認の対象は弁済行為そのものであり、その原資となった財産処分の認定に不十分な点があっても、弁済の事実が動かない以上、原判決を破棄するには足りない。上告棄却。
実務上の射程
否認権(特に偏頗行為)の主張において、ターゲットとなるべきは「特定の債権者への利益供与(弁済等)」であることを再確認する事案。実務上、弁済原資が不当な財産処分により形成された場合でも、否認の対象を「弁済」に置くのであれば、その前段階の処分の細かな特定不備が、直ちに否認の効果を妨げるものではないことを示す。
事件番号: 昭和37(オ)422 / 裁判年月日: 昭和37年12月6日 / 結論: 棄却
一 破産者が強制執行を受けるについて害意ある加功をなした場合には、執行行為に基づく破産者の弁済は、破産法第七二条第一号によつて否認されうる。 二 破産法第七二条第一号による否認権行使においては、否認を免れようとする受益者がその行為の当時破産債権者を害することを知らなかつたことの立証責任を負う。
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…
事件番号: 昭和33(オ)383 / 裁判年月日: 昭和35年4月21日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】否認権行使の対象となる弁済の事実が証拠により認められない場合には、当該弁済を対象とする否認請求を認容することはできない。 第1 事案の概要:破産者株式会社Dが、上告会社に対し、昭和28年8月13日に金11万8000円の弁済を行ったとして、否認権が行使された。第一審判決はこの請求を認容し、原審(控訴…