判旨
否認権行使の対象となる弁済の事実が証拠により認められない場合には、当該弁済を対象とする否認請求を認容することはできない。
問題の所在(論点)
否認権行使の対象となる「弁済の事実」について、証拠に基づかない認定による認容判決が許されるか。
規範
否認権行使の要件として、否認の対象となる行為(本件では弁済)が実際に存在することが必要であり、その事実は証拠に基づき認定されなければならない。
重要事実
破産者株式会社Dが、上告会社に対し、昭和28年8月13日に金11万8000円の弁済を行ったとして、否認権が行使された。第一審判決はこの請求を認容し、原審(控訴審)もこれを正当として維持した。
あてはめ
原判決が挙げている証拠を精査しても、破産者による金11万8000円の弁済の事実を肯定することはできない。事実認定に証拠上の裏付けが欠けている以上、当該事実を前提とした否認権の行使を認めることは不当である。
結論
弁済の事実が認められないため、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
否認権行使の要件論(破産法160条以下)において、大前提となる「行為の存在」の立証責任が破産管財人にあることを再確認する事案である。答案上は、否認対象行為の特定と存在の認定が不可欠であることを示す際に参照し得る。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
事件番号: 昭和58(オ)1447 / 裁判年月日: 昭和61年4月3日 / 結論: 破棄差戻
破産管財人が破産者のした代物弁済を否認してその相手方に対し目的物である中古トラックの価額償還を求める訴訟において、裁判所が価額償還請求権の発生を肯認する判断に達したが、否認権行使時の時価については原告の主たる立証の対象とならず、また被告もこれを積極的に争わないという場合に、代物弁済時及び相手方の処分時の価額については書…
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
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