破産会社が買い戻した手形についてその手形金の支払を受けた場合において、その買戻代金の支払と手形金の受領とにより、破産財団に属する財産に価値の減少をきたさないときは、右買戻代金の支払について、破産法七二条による否認権を行使することは許されない。
買戻にかかる手形について手形金の支払を受けた場合と否認権の行使の許否
破産法72条
判旨
破産者が手形を買い戻すために代金を支払った場合であっても、当該手形につき手形金額が現実に支払われ、破産財団の価値に減少を来さないときは、当該買戻代金の支払について否認権を行使することはできない。
問題の所在(論点)
破産者が手形を買い戻し、その代金を支払った行為について、その後に破産者が手形金の支払を受けて破産財団の価値が回復した場合、否認権(現行破産法162条等)を行使することができるか。
規範
破産法上の否認権(現行法160条以下)は、破産財団に属する財産の不当な流出を防止し、債権者間の公平な分配を図る制度である。したがって、行為の外形が弁済等に該当する場合であっても、当該行為と密接に関連する入金等を含めて破産財団の価値変動を総合的に考察し、結果として破産財団の財産価値に実質的な減少を来さない場合には、否認権を行使することはできないと解すべきである。
重要事実
破産者D社は、上告人に対し、第三者が振り出した約束手形3通(合計320万円)につき満期前に買戻請求権を行使され、買戻代金320万円を支払った。破産管財人(被上告人)は、この代金支払行為が旧破産法72条の否認対象となるとして訴えを提起した。これに対し上告人は、D社が手形買戻し後に訴外Fを介して当該手形金320万円の支払を現実に受けているため、破産財団に損失はないと主張した。
あてはめ
本件において、D社による買戻代金320万円の支払は、一見すると財産の流出にあたる。しかし、D社が買い戻した手形について、その額面金額が現実にD社に対して支払われたのであれば、支払った買戻代金と受領した手形金とが相殺されるのと同様の結果となる。このように買戻代金の支払と手形金の受領を総合的に考察した結果、破産財団に属する財産価値に減少が生じていないと認められるときは、責任財産の保全という否認権の趣旨に照らし、当該支払行為を否認することは許されない。原審は手形金の受領事実を考慮せずに否認権行使を認めており、審理不尽の違法がある。
結論
手形買戻代金の支払と手形金の受領を差し引き、破産財団の価値に減少を来さない限り、否認権の行使は許されない。本件における手形金の受領事実の有無を審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
特定の支払行為が形式的に否認要件(偏頗弁済等)を満たす場合でも、それと対価的・密接に関連する反対給付や利益が財団に還元されている場合は、実質的な財団の減少がないとして否認を否定する理論的根拠(実質的減少説)として活用できる。答案上は、否認権の趣旨である「責任財産の保全」に遡って論証する際に有用である。
事件番号: 平成7(オ)863 / 裁判年月日: 平成9年12月18日 / 結論: 破棄差戻
甲から動産を買い受けた乙がこれを丙に転売して引き渡したことにより、甲が右動産に対して動産売買の先取特権を行使し得なくなったところ、その後に支払を停止した乙が、右動産を甲に返還する意図の下に、丙との間で転売契約を合意解除して右動産を取り戻した上、甲に対する右動産の売買代金債務の代物弁済に供したなど判示の事実関係の下におい…
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…