甲から動産を買い受けた乙がこれを丙に転売して引き渡したことにより、甲が右動産に対して動産売買の先取特権を行使し得なくなったところ、その後に支払を停止した乙が、右動産を甲に返還する意図の下に、丙との間で転売契約を合意解除して右動産を取り戻した上、甲に対する右動産の売買代金債務の代物弁済に供したなど判示の事実関係の下においては、乙が右動産を代物弁済に供した行為は、破産法七二条四号による否認の対象になる。
動産の買主が転売先から取り戻した右動産を売主に対する売買代金債務の代物弁済に供した行為が破産法七二条四号による否認の対象になるとされた事例
破産法72条4号,民法322条,民法333条
判旨
支払停止後、転売済みの動産を被上告人への返還目的で合意解除により取り戻し、代物弁済に供した行為は、実質的に新たな担保設定と同視でき、旧破産法72条4号(現行162条1項1号イ)の否認対象となる。
問題の所在(論点)
支払停止後に、一旦転売され先取特権が行使不能となった物件を、合意解除によって取り戻した上で代物弁済に供する行為が、破産法上の否認対象(偏頗行為否認)に該当するか。特に、実質的に「義務のない担保提供」等と同視できるかが問題となる。
規範
動産売買の先取特権の目的物が第三者に引き渡され、担保権の行使が不可能になった後、支払停止後の債務者が当該物件を取り戻す行為は、実質的に「新たな担保の設定」と同視できる。このような取り戻しと一体となって行われた代物弁済は、支払停止後に義務なくして設定された担保権に基づき、その目的物を代物弁済に供する行為に等しく、破産債権者を害するものとして否認権(旧法72条4号、現行162条1項1号イ参照)の対象となる。
重要事実
紳士服卸売の破産会社は、被上告人からスーツ106着を買い受けたが、うち50着を第三者Dに転売して引き渡した。破産会社は第1回目の手形不渡りにより支払を停止。その後、被上告人の要請を受け、返還を目的としてDとの転売契約を合意解除し、手形と引き換えに物件を取り戻した。その直後、当該物件を被上告人に対する買受代金債務の弁済に代えて譲渡(本件代物弁済)した。破産管財人は、この代物弁済が否認対象であるとして価額償還を求めた。
あてはめ
被上告人の先取特権は、物件がDに引き渡されたことで行使不能となっていた。破産会社が支払停止後に物件を取り戻した行為は、法的に不可能だった担保権行使を可能にするものであり、実質的に「新たな担保設定」と同視し得る。本件代物弁済は、物件返還の意図の下で取り戻しと一体不可分に行われており、実質的に「義務なく設定された担保権」に基づく代物弁済に等しい。また、転売代金債権への物上代位の可能性については、弁済期未到来等の制約により、他の債権者を害しないとする根拠にはならない。
結論
本件代物弁済は、旧破産法72条4号(現行162条1項1号イ)の規定に基づき、否認の対象となる。したがって、原判決を破棄し、否認時点の物件価額を審理させるため差し戻す。
実務上の射程
支払停止後の偏頗行為否認において、形式的には対価的均衡があるように見えても、実質的に特定の債権者にのみ優先権を回復・付与させる一連の行為(取り戻し+弁済)を一体として「義務のない提供」と評価する。動産先取特権の追及力が失われた後の「復活」スキームを封じる際に有用な論法である。
事件番号: 昭和35(オ)883 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 破棄差戻
甲が乙(破産者)に対し譲渡担保権付債権を有する場合に、甲が乙から右債権につき担保物件をもつて代物弁済を受けたときは、その弁済額の範囲内においては、右代物弁済は否認の対象にならない。