否認権行使の効果として現物の返還に代る価格の償還を求める場合においては、右価格は、否認権行使の時点における価格を基準として算定すべきである。
否認権行使の効果として現物の返還に代る価格の償還を求める場合における価格算定の基準時
破産法77条
判旨
動産の売買代金債権に基づき特別の先取特権を有する者が、目的物を代物弁済として受領する行為も否認権行使の対象となるが、その返還の範囲は物品の価格から優先弁済を受けるべき債権額を控除した残額に限られる。また、現物返還不能に伴う価格償還の基準時は、否認権行使時の時価によるべきである。
問題の所在(論点)
1. 特別の先取特権を有する債権者が、その目的物を代物弁済として受領した場合、否認権行使を免れるか。また、免れない場合の否認権行使の範囲をいかに解すべきか。 2. 否認権行使に基づく価格償還の基準時はいつか。
規範
1. 特別の先取特権(民法311条6号等)を有する債権者が、法定の手続によらず代物弁済として物品の引渡しを受ける行為は、否認権行使(破産法旧72条1号、現160条1項)の対象となる。ただし、この場合の否認の範囲は、物品の価格から、先取特権者が優先弁済を受けるべき債権額を控除した残額に限定される。 2. 否認権行使に基づく現物返還が不可能な場合の価格償還の範囲は、破産法旧77条(現167条1項)の趣旨に照らし、否認対象行為時ではなく「否認権が行使された時点」の価格を基準とする。
重要事実
破産者D社から、同社に対する服地類の売買代金債権を有していた上告人が、代物弁済として当該物品(本件各目録記載の物品)の引渡しを受けた。破産管財人(被上告人)は、この代物弁済が詐害行為に該当するとして否認権を行使し、物品の返還に代わる価格償還を求めた。上告人は、自身が動産先取特権を有する債権者であるため否認の対象とならないこと、および償還額の算定基準を争った。第一審・原審は、上告人が債権額の立証を尽くしていないとして、物品の全額を償還対象とし、その価格も代物弁済当時の価格を基準に判断した。
あてはめ
1. 上告人は動産先取特権を有しているが、法定手続によらず代物弁済を受けることは破産債権者間の平等を害するため否認の対象となる。しかし、上告人は先取特権により一般債権者に優先して弁済を受ける地位にあるため、実質的に一般債権者を害するのは「物品価格から優先弁済額を差し引いた残額」に限定される。本件では、上告人が主張する売買代金債権そのものが先取特権の被担保債権であり、その額が認定可能であれば、物品価格から控除されるべきである。 2. 価格償還は、本来返還すべき現物が返還できないことによる補償である。したがって、返還義務が確定する「否認権行使時」を基準とすべきである。本件では代物弁済から否認権行使まで1年余が経過しており、服地類という特性上、物価変動の影響を考慮して否認権行使時の時価を審理する必要がある。
結論
1. 特別の先取特権者による代物弁済も否認の対象となるが、返還範囲は物品価格から優先弁済額を控除した額に留まる。 2. 現物返還に代わる価格償還の基準時は、否認権行使時の時価である。
実務上の射程
別除権者(先取特権・抵当権等)が目的物を任意に譲受した場合、その行為自体は否認の対象となるが、別除権の限度で「受益者の利益」を保護する実務上の枠組みを示している。また、価格償還の基準時について「否認権行使時」と明示した点は、相場変動がある動産取引の否認において極めて重要な指針となる。
事件番号: 昭和37(オ)821 / 裁判年月日: 昭和40年7月8日 / 結論: 破棄差戻
破産法第七二条第一号にいわゆる「破産債権者ヲ害スル」とは債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることをいうものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和38(オ)669 / 裁判年月日: 昭和40年4月6日 / 結論: 棄却
代物弁済契約の否認により、原物に代わる利得の返還をなすべき範囲は、否認された行為の時における目的物の価額ではなく、否認権の行使される現時の価額を基準として決定すべきであると解すべきである。