代物弁済契約の否認により、原物に代わる利得の返還をなすべき範囲は、否認された行為の時における目的物の価額ではなく、否認権の行使される現時の価額を基準として決定すべきであると解すべきである。
否認権行使による利得返還の範囲を算定する基準時。
破産法77条1項
判旨
破産法上の否認権が行使された際、代物弁済の目的物が滅失等により原物返還不能である場合、返還すべき利得の範囲は、否認対象行為時ではなく否認権行使時における目的物の価額を基準として決定すべきである。
問題の所在(論点)
破産法上の否認権(現行破産法160条等)の行使に伴う原状回復義務において、目的物が返還不能となった場合の価額償還の基準時期が、行為時か否認権行使時(現時)のいずれかであるかが問題となった。
規範
代物弁済契約が否認された場合において、目的物の滅失等により原物返還が不能であるときは、原物に代わる利得の返還義務を負う。その返還範囲は、否認された行為の時における目的物の価額ではなく、否認権が行使された現時の価額を基準として決定すべきである。
重要事実
破産会社が被上告人らに対し、代物弁済として商品を譲渡したが、後に破産管財人(上告人)が当該代物弁済について否認権を行使した。しかし、被上告人らが当該商品を受領した後、否認権が行使されるまでの間に、商品は被上告人らの責に帰すべき事由によらずに廃棄処分され、既に価値を喪失して現存しない状態となっていた。
あてはめ
本件では、否認権行使の時点において、代物弁済の目的物たる商品は既に被上告人らの責によらずに廃棄されており、その価値を喪失していた。価額償還の基準は否認権行使時(現時)の価額によるべきであるところ、行使時において既に目的物の価値が失われている以上、返還すべき利得(価額)は存在しないと解される。
結論
被上告人らは利得の返還義務を負わない。したがって、上告人(破産管財人)による被上告人らに対する価額償還請求は認められない。
実務上の射程
否認権行使の効果としての原状回復について、目的物の価額が変動する場合や滅失した場合の基準時を「否認権行使時」と明示した。答案上は、現行破産法167条1項前段の適用に関連し、受益者が善意・悪意を問わず、現存利益の返還(または行使時基準の価額償還)に限定される趣旨を論述する際に活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)1323 / 裁判年月日: 昭和41年11月17日 / 結論: その他
否認権行使の効果として現物の返還に代る価格の償還を求める場合においては、右価格は、否認権行使の時点における価格を基準として算定すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。