破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
支払停止以前における本旨弁済と否認権の行使
破産法72条1号
判旨
支払停止等の前の時期に行われた本旨弁済であっても、破産者が他の債権者を害することを知って行い、かつ、債権者がその事実を知っていた場合には、詐害行為否認(現行破産法160条1項1号)の対象となる。
問題の所在(論点)
支払停止前に行われた本旨弁済(債務の履行)が、旧破産法72条1号(現行160条1項1号)の詐害行為否認の対象となるか。特に、支払不能前や支払停止前であっても、詐害の意思および悪意が認められれば否認しうるかが問題となる。
規範
旧破産法72条1号(現行160条1項1号)にいう「行為」には、支払停止前になされた本旨弁済も含まれる。債務者が他の債権者を害することを知って弁済し、かつ、受領した債権者がその事実(詐害の事実)を知っていたときは、当該弁済を否認することができる。本旨弁済を否認の対象としても、悪意の債権者の利益を不当に害するとはいえないためである。
重要事実
破産者Dは、昭和28年11月2日以降、上告人(債権者)に対して債務の弁済を行った。この弁済は、支払停止以前に行われた「本旨弁済(債務の本来の趣旨に従った弁済)」であった。その後、Dが破産したため、破産管財人は当該弁済が他の債権者を害する詐害行為にあたるとして、その否認を求めて提訴した。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
あてはめ
破産者Dが弁済に至った経緯等の諸般の事情によれば、Dには他の債権者を害する認識(詐害の意思)が認められる。また、受益者である上告人も、Dが他の債権者を害することを知りながら弁済を受領した(悪意)と認められる。本旨弁済であっても、このような主観的要件を満たす場合には、債権者平等の原則を害するものとして否認権行使の対象となるべきである。
結論
支払停止前の本旨弁済であっても、詐害の意思および悪意が認められる以上、詐害行為として否認することができる。
実務上の射程
現行破産法160条1項1号(詐害行為否認)の解釈として確立した判例である。弁済期にある債務の弁済(本旨弁済)は通常適法とされるが、本判決により、時期を問わず詐害の意思と悪意があれば否認しうることが明確になった。答案では、支払不能等の時期要件を欠く場合でも、同号の主観的要件を検討する際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和38(オ)916 / 裁判年月日: 昭和39年7月29日 / 結論: 棄却
破産法第七二条第二号の債務の消滅に関する行為には、破産者に対する強制執行に基づく配当行為も含まれ、これに対する否認権行使が許される。
事件番号: 昭和38(オ)669 / 裁判年月日: 昭和40年4月6日 / 結論: 棄却
代物弁済契約の否認により、原物に代わる利得の返還をなすべき範囲は、否認された行為の時における目的物の価額ではなく、否認権の行使される現時の価額を基準として決定すべきであると解すべきである。