一 大口債権者が本件土地の所有権を取得することによりその債務が消滅すれば、残る小口債権者に対する支払は必ずしも困難ではなく、破産会社の債権、操業再開も必ずしも不可能でないということを破産会社の首脳部が信じてなした本件土地の右大口債権者に対する代物弁済契約もしくは根抵当権設定契約に破産債権者を害する意思が認められないとしたことに違法がない。 二 否認の主張が破産法第八四条所定の要件に該当するときは、相手方の主張をまつことなく、同条を適用して否認権行使ができないと判断しなければならない。
一 大口債権者に対する代物弁済等に破産債権者を害する意思が認められないとされた事例。 二 破産法第八四条の適用と当事者の主張の要否。
破産法72条1号,破産法84条
判旨
破産者が特定の債権者に対し代物弁済を行った場合であっても、大口債権者の協力や操業再開の可能性を信じ、債権者を害する意思がないと認められる特段の事情があれば、詐害行為否認(破産法160条1項1号)は成立しない。
問題の所在(論点)
支払停止後になされた特定の債権者に対する代物弁済について、破産法上の詐害行為否認(現行160条1項1号)の要件である「債権者を害することを知って」(詐害の意思)が認められるか。
規範
破産法における詐害行為否認(現行160条1項1号)が成立するためには、破産者が「債権者を害することを知って」した行為であることを要する。もっとも、支払停止等の窮状にある場合であっても、特定の債務の消滅によって残余の支払が容易となり、会社の再建・操業再開が可能であると信じて努力していたなど、債権者を害する主観的意図を欠く特段の事情が認められる場合には、同号の否認権行使は認められない。
重要事実
破産会社Fは、昭和29年4月頃から支払を停止し、6月頃には操業を停止していた。その後、Fは被上告人ら債権者に対し、昭和30年3月から5月にかけて、債務の代物弁済として本件各土地を譲渡し、所有権移転登記を完了した。一方で、Fは大手債権者D洋紙店から援助の承諾を得ており、他の債権者Eに対しても担保を提供していた。Fの首脳部および被上告人らは、本件代物弁済によって債務が減少すれば、小口債権者への支払は容易になり、操業再開が可能であると信じて再建に向けた努力を続けていた。その後、Fは昭和32年12月に破産宣告を受けた。
あてはめ
Fは支払停止状態にあり、運転資金も枯渇していたが、大口債権者からの援助の了解を得ていたほか、一部債権者には個別的な担保提供を行うなど、全債権者を無視した隠匿行為を行っていたわけではない。本件代物弁済により被上告人らへの債務が消滅すれば、残る小口債権者への弁済は困難ではなくなり、操業再開も不可能ではないと判断されていた。Fの首脳部は操業再開を信じて努力しており、被上告人らも同様の認識であった。そうであれば、本件行為は残余の債権者を害する目的でなされたものとはいえず、破産者に詐害の意思があったとは認められない。また、破産宣告の1年以上前になされた行為であるため、現行160条1項2号(旧72条2号)による否認も適用できない。
結論
破産者および相手方に債権者を害する意思があったとは認められず、詐害行為否認は成立しない。
実務上の射程
特定の債権者への弁済が「破産更生に向けた真摯な努力」の一環であると評価される場合の詐害性を否定する材料として活用できる。ただし、支払停止後の行為については現行法162条(危機否認)の検討が優先されるため、本判例の論理は主に160条1項1号(詐害行為否認)における主観的要件の反論として位置づけられる。
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
事件番号: 昭和37(オ)821 / 裁判年月日: 昭和40年7月8日 / 結論: 破棄差戻
破産法第七二条第一号にいわゆる「破産債権者ヲ害スル」とは債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることをいうものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和36(オ)275 / 裁判年月日: 昭和38年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産法上の詐害行為取消権における「破産者が破産債権者を害することを知りて」とは、単に他の債権者を害する認識があれば足り、加害の意図や意欲までは不要である。また、債務超過かつ資金繰り困難な状況下で、特定債権者の支払猶予の代償として唯一の安定した資産に担保を設定する行為は、原則として詐害行為に該当する…