債務者が債務整理の方法等について弁護士と相談し、右弁護士との間で破産申立の方針を決めたとしても、他に特段の事情のない限り、破産法七四条一項にいう「支払ノ停止」があつたとはいえない。
破産法七四条一項にいう「支払ノ停止」があつたとはいえないとされた事例
破産法74条
判旨
破産法上の「支払の停止」は、債務者が支払不能である旨を明示的又は黙示的に外部へ表示する行為を指し、弁護士との間で破産申立の方針を決定しただけでは、特段の事情のない限りこれに該当しない。
問題の所在(論点)
破産法(現行法162条1項1号、旧法74条1項)の否認権行使の要件である「支払の停止」の意義、及び弁護士との破産申立方針の決定がこれに該当するか。
規範
「支払の停止」とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えて、その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいう。債務者が弁護士との間で破産申立の方針を決めたとしても、特段の事情がない限り、それは内部的な方針決定に過ぎず、外部への表示行為には当たらない。
重要事実
建築・不動産業を営むDは、資金繰りに窮し、債権者Aから1500万円を借り入れる際に本件土地建物に仮登記を設けた。Dは支払不能状態に陥り、昭和56年10月8日、弁護士Eと相談して破産申立の方針を決定した。その後、AはDから登記書類を受け取り、同月15日に仮登記手続を完了した。同日、Eは破産申立を行い、後にDは破産宣告を受けた。破産管財人(被上告人)は、10月8日の相談時点で「支払の停止」があったとして、仮登記の否認を主張した。
あてはめ
Dが10月8日に弁護士Eと面談し、破産申立の方針を決定した事実は認められる。しかし、この時点ではDと弁護士との間の合意という内部的な意思決定が行われたに過ぎない。この方針決定が外部の債権者等に対して、明示的または黙示的に伝達されたと評価できる特段の事情がない限り、支払の停止があったとは認められない。原審が10月8日をもって直ちに支払停止と認めたことは、外部への表示行為という要件を欠いた判断であり、審理不尽の違法がある。
結論
弁護士との間で破産申立の方針を決定しただけでは、原則として「支払の停止」には当たらない。
実務上の射程
破産否認(支払不能後の偏頗行為など)の論点において、「支払の停止」の定義を論じる際のリーディングケースである。答案では、単なる内部的な経営判断や専門家への相談と、受任通知の送付などの「外部への表示」を峻別する基準として用いる。実務上は、弁護士による受任通知の発信時が支払停止時期とされることが多いが、本判例はその前段階の相談のみでは足りないことを示している。
事件番号: 平成23(受)462 / 裁判年月日: 平成24年10月19日 / 結論: 破棄自判
債務者の代理人である弁護士が債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為は,?上記通知に,上記債務者が自らの債務整理を弁護士に委任した旨並びに当該弁護士が債権者一般に宛てて上記債務者,その家族及び保証人への連絡及び取立て行為の中止を求める旨の各記載がされていたこと,?上記債務者が単なる給与所得者であり広く事業を営む…