一、債務の弁済期が未到来のため債権者が代物弁済一方の予約に基づく予約完結権を行使できない間に、債権者および債務者が債務者に対し破産の申立がされたことを知つて、両者が相通じ、債務者は期限の利−益を放棄して予約完結権の行使を誘致し、債権者は債務者に対し一方的予約完結の意思表示をし代物弁済の効力を生ぜしめた場合には、債権者の右予約完結の行為は破産法第七二条第二号により否認することができる。 二、右の場合において、債権者の代物弁済の予約による所有権移転請求権保全の仮登記がされているときは、特別の事情のないかぎり、破産管財人は、債権者の右行為を破産法第七二条第二号により否認することはできないが、右仮登記が、その後、権利放棄を理由に債権者により抹消されて右仮登記に基づく本登記がありえなくなつた場合には、債権者の右行為の当時に右仮登記が存したことをもつて否認権の行使をさまたげられるものではない。
一、債権者の代物弁済予約完結の行為が破産法第七二条第二号により否認されうる場合 二、右予約完結に際し代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記が存する場合およびその後右仮登記が権利放棄を理由に債権者により抹消された場合と破産法第七二条第二号による否認
破産法72条2号,民法482条,不動産登記法2条2号,不動産登記法7条2項
判旨
弁済期未到来の債務者が債権者と通じて期限の利益を放棄し、破産申立後の代物弁済予約完結を誘致した場合、当該行為は否認権の対象となる。また、保全の仮登記があっても、その後に権利放棄を理由として抹消された場合には、否認権の行使を妨げない。
問題の所在(論点)
弁済期未到来の債務について期限の利益を放棄して行われた代物弁済予約の完結が、非義務行為として否認の対象となるか。また、抹消された仮登記の存在が否認権行使の妨げとなるか。
規範
1. 債務者が破産の申立てがなされたことを知りながら、債権者と相通じて期限の利益を放棄し、予約完結権の行使を誘致して代物弁済の効力を生じさせた場合、破産法上の非義務行為否認(現行破産法162条1項2号相当)の対象となる。2. 仮登記がなされている場合、原則として否認は制限されるが、当該仮登記が権利放棄を理由に抹消された場合には、もはや仮登記による対抗力の主張は認められず、否認権の行使が可能となる。
重要事実
債務者D組合の理事長Eは、組合が経営破綻し破産申立てを受けた直後、債権者Aの代理人Fに対し、期限の利益を放棄して代物弁済予約を完結するよう申し入れた。Fも組合の窮状を知りつつこれに応じ、予約完結の意思表示を受けて所有権移転登記を了した。その際、Aは既に所有権移転請求権保全の仮登記を得ていたが、便宜上の理由からこれを抹消した上で本登記を行った。その後Dは破産宣告を受け、破産管財人が当該代物弁済の否認を求めた。
あてはめ
Dの理事長Eは、自らの連帯保証責任を免れる等の目的で、破産申立後に債権者Aと相通じて期限の利益を放棄しており、本来は義務のない時期に代物弁済の効力を発生させたといえる。A側も組合が破産に瀕していることを熟知して回収を急いでおり、非義務的支払に該当する。また、Aは当初有していた仮登記を自ら抹消しており、仮登記に基づく本登記による優先的地位を放棄したものと解される。したがって、当時仮登記が存在した事実は否認権行使の障害とはならない。
結論
本件代物弁済予約完結行為は破産法72条2号(現行162条1項2号)により否認される。仮登記が抹消されている以上、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
期限の利益の放棄を伴う代物弁済の否認可能性を示した重要判例である。答案上では、仮登記による保護の限界と、登記抹消による『特別の事情』の肯定、及び弁済期未到来の債務についての弁済の非義務性を論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)1262 / 裁判年月日: 昭和40年4月22日 / 結論: 棄却
一 大口債権者が本件土地の所有権を取得することによりその債務が消滅すれば、残る小口債権者に対する支払は必ずしも困難ではなく、破産会社の債権、操業再開も必ずしも不可能でないということを破産会社の首脳部が信じてなした本件土地の右大口債権者に対する代物弁済契約もしくは根抵当権設定契約に破産債権者を害する意思が認められないとし…
事件番号: 昭和37(オ)821 / 裁判年月日: 昭和40年7月8日 / 結論: 破棄差戻
破産法第七二条第一号にいわゆる「破産債権者ヲ害スル」とは債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることをいうものと解するのが相当である。