一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合と相殺の許否 二 破産債権者の相殺権行使は否認権の対象となるか
破産法104条,破産法72条,破産法98条
判旨
破産債権者が支払停止等を知って破産者に対し債務を負担した場合でも、旧破産法104条3号(現72条1項3号)を類推適用して相殺を禁止することはできない。また、破産債権者が行う相殺権の行使自体は、破産者の行為を含まないため否認権の対象とはならない。
問題の所在(論点)
1. 破産債権者が支払停止等を知って債務を負担した場合に、旧破産法104条3号を類推適用して相殺を禁止できるか。 2. 破産債権者による相殺権の行使それ自体が、否認権行使の対象となるか。
規範
1. 破産法上の相殺禁止規定は限定的に解すべきであり、債務負担時における相殺禁止を定めた規定がない以上、原則として相殺は許容される。旧法104条3号(現72条1項3号)は破産者の加担なく行われ得る債権取得を規制するものであり、破産者の承諾(加担)を要する債務負担の場合に同条を類推適用することは法の趣旨に反する。 2. 否認権の対象は「破産者のした行為」等に限られるため、債権者が一方的意思表示によって行う相殺権の行使それ自体は、否認の対象とならない。
重要事実
破産債権者である被上告銀行は、債務者(後の破産者)について支払の停止または破産申立てがあったことを知りながら、破産者に対して債務を負担した。その後、銀行は当該債務と自己の破産債権を相殺した。これに対し、破産管財人である上告人が、旧破産法104条3号の類推適用または否認権の行使を根拠に、相殺の無効を主張して不当利得返還等を求めた。
あてはめ
1. 旧法104条1号は破産宣告後の債務負担のみを禁止し、宣告前の危殆時期の債務負担を禁止する規定はない。3号が債権取得を禁止するのは破産者の加担なしに不当な相殺が図られるのを防ぐためであるが、債務負担には破産者の承諾等の加担が不可欠であり、不当な行為に対しては債務負担行為自体を否認すれば足りる。したがって、3号を類推適用する基礎を欠く。 2. 相殺権の行使は債権者による単独行為であり、破産者の行為を介在させない。よって、否認権の要件を充足しない。
結論
相殺は有効である。旧法104条3号の類推適用は認められず、また相殺権の行使自体を否認することもできないため、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
現行破産法72条1項4号は、本判決の隙間を埋める形で「支払停止等を知っての債務負担」による相殺禁止を明文化したが、本判決の「相殺権行使そのものは否認対象にならない」という法理は依然として重要である。実務上は、相殺の前提となる債務負担行為や債権取得行為自体を否認対象とすべきことを示唆している。
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…