破産法第七二条第二号の債務の消滅に関する行為には、破産者に対する強制執行に基づく配当行為も含まれ、これに対する否認権行使が許される。
破産者に対する強制執行に基づく配当行為に対する否認権の行使を認めた事例。
破産法72条2号,破産法75条
判旨
旧破産法72条2号(現行162条1項)の否認権の対象となる「債務の消滅に関する行為」には、破産者の意思に基づく行為のみならず、債権者の強制執行の結果としてなされた弁済たる配当行為も含まれる。
問題の所在(論点)
債権者が強制執行手続を通じて得た配当による弁済が、旧破産法72条2号(現行162条1項に相当)にいう「債務の消滅に関する行為」として否認権行使の対象となるか。また、その基準時は強制執行の着手時か、あるいは配当による弁済時か。
規範
破産法における否認権の対象となる「債務の消滅に関する行為」は、破産者の積極的な意思に基づく行為に限定されない。債権者が強制執行手続によって行った行為であっても、それが破産者の財産をもって債務を消滅させる法的効果を生じさせるものである限り、否認権行使の対象となり得る。
重要事実
債権者である上告人は、債務者である訴外株式会社D(後の破産者)に対し、別の債権者と共に強制執行を申し立てた。その執行手続の結果、上告人はDに対する債権の一部の弁済として配当金を受領した。その後、Dについて破産手続が開始されたため、破産管財人である被上告人が、当該配当行為が偏頗行為(旧破産法72条2号)に当たるとして否認権を行使し、配当金の返還を求めた。
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
あてはめ
本件で否認の対象とされているのは、強制執行の結果としてなされた配当行為そのものである。否認権の趣旨は債権者間の平等確保にある。強制執行という公権的関与を伴う手続であっても、実質的に破産者の財産から特定の債権者へ弁済がなされ債務が消滅した事実に変わりはない。したがって、当該配当行為が破産法所定の要件を満たす限り、強制執行の着手時ではなく、現実の弁済たる配当行為時を基準としてその適法性を判断すべきである。
結論
強制執行による配当行為は否認権の対象に含まれる。したがって、当該配当が支払不能後等になされたものである限り、否認権の行使は認められる。
実務上の射程
現行破産法162条1項の偏頗否認においても、判例理論として確立している。強制執行による満足であっても、他の債権者との平等が害される場面(支払不能後の配当等)では否認の対象となる。答案上は、否認権の対象を「債務者の行為」と限定せず、執行手続による満足も含む点に言及する際に活用する。
事件番号: 昭和48(オ)544 / 裁判年月日: 昭和48年12月21日 / 結論: 棄却
破産法七二条二号の債務消滅に関する行為とは、破産者の意思に基づく行為のみにかぎらず、賃権者が同法七五条の強制執行としてした行為であつて破産者の財産をもつて債務を消滅させる効果を生じさせる場合を含む。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。
事件番号: 昭和38(オ)669 / 裁判年月日: 昭和40年4月6日 / 結論: 棄却
代物弁済契約の否認により、原物に代わる利得の返還をなすべき範囲は、否認された行為の時における目的物の価額ではなく、否認権の行使される現時の価額を基準として決定すべきであると解すべきである。