破産管財人が破産者のした代物弁済を否認してその相手方に対し目的物である中古トラックの価額償還を求める訴訟において、裁判所が価額償還請求権の発生を肯認する判断に達したが、否認権行使時の時価については原告の主たる立証の対象とならず、また被告もこれを積極的に争わないという場合に、代物弁済時及び相手方の処分時の価額については書証があつて、否認権行使時の時価が零であるとは到底考えられず、またその立証も可能であるなど判示のような事情があるときは、裁判所は、右時価の立証を促すべきであり、かかる措置に出ることなく、その立証がないとの理由で請求を排斥することは、釈明権不行使、審理不尽の違法を免れない。
立証についての釈明権の不行使が違法とされた事例
破産法72条,破産法77条,民訴法127条
判旨
否認権行使に基づく価額償還請求において、現物返還不能に伴う償還額は否認権行使時の時価によるべきであり、裁判所は立証が不十分な場合に釈明権を行使して立証を促す義務がある。
問題の所在(論点)
1. 否認権行使に基づく価額償還請求における、価額算定の基準時はいつか。 2. 立証が不十分であるとして直ちに請求を棄却することが、釈明権の行使を怠った違法(民訴法149条)にあたるか。
規範
1. 破産法上の否認権行使の結果、現物の返還が不可能なためこれに代えてその価額を償還すべき場合には、旧破産法77条(現行168条1項参照)の法意に照らし、否認権行使時の時価をもって算定すべきである。 2. 訴訟の経緯に照らし、主要な論点について当事者が積極的に争わず反証も提出していない状況下で、裁判所が請求の根拠となる事実の発生を肯定しながら、その具体的数値(価額)の立証がないとして直ちに請求を棄却することは、釈明権の行使を怠った審理不尽の違法(民訴法149条違反)にあたる。
重要事実
事件番号: 昭和38(オ)669 / 裁判年月日: 昭和40年4月6日 / 結論: 棄却
代物弁済契約の否認により、原物に代わる利得の返還をなすべき範囲は、否認された行為の時における目的物の価額ではなく、否認権の行使される現時の価額を基準として決定すべきであると解すべきである。
破産管財人(上告人)は、被上告人が支払停止後に破産会社からトラックを搬出した行為に対し、否認権(旧破産法72条4号)を行使し、予備的に価額償還を請求した。上告人は搬出時の減価償却残存価額を主張し、被上告人はこれに積極的に反論しなかった。原審は、償還額の算定基準時は「否認権行使時」であるとした上で、当該時点の時価の立証がないとして、請求権の発生を認めつつも上告人の請求を棄却した。しかし、記録上は取得価格や下取価格の証拠が存在し、否認権行使時の価値がゼロとは考えにくい状況であった。
あてはめ
1. 本件トラックは昭和52年に約433万円で取得され、否認権行使の約2年前には200万円で下取りされた実績がある。否認権行使時において価値が消滅していたとは到底考えられず、立証は十分可能であったといえる。 2. 原審では、審理の焦点が支払停止の有無等の否認要件にあり、価額の点は主要な立証対象となっていなかった。また、相手方も価額を積極的に争っていなかった。 3. このような訴訟の経緯に鑑みれば、裁判所は直ちに請求を排斥するのではなく、適切な算定基準時(否認権行使時)に基づく立証を促すべきであったといえる。
結論
価額償還の基準時は否認権行使時である。本件において、立証を促さず直ちに請求を棄却した原審には釈明権行使の懈怠による審理不尽の違法があるため、破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
実務上、否認権行使による価額償還請求では、訴状送達時等の「否認権行使時」の時価を主張・立証する必要がある。また、裁判所の釈明義務の限界事例として、当事者に予断を与えかねない状況や、立証の必要性を看過している場合に釈明を促すべき義務を肯定する論拠として引用できる。
事件番号: 昭和37(オ)1323 / 裁判年月日: 昭和41年11月17日 / 結論: その他
否認権行使の効果として現物の返還に代る価格の償還を求める場合においては、右価格は、否認権行使の時点における価格を基準として算定すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)383 / 裁判年月日: 昭和35年4月21日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】否認権行使の対象となる弁済の事実が証拠により認められない場合には、当該弁済を対象とする否認請求を認容することはできない。 第1 事案の概要:破産者株式会社Dが、上告会社に対し、昭和28年8月13日に金11万8000円の弁済を行ったとして、否認権が行使された。第一審判決はこの請求を認容し、原審(控訴…
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。