甲が乙(破産者)に対し譲渡担保権付債権を有する場合に、甲が乙から右債権につき担保物件をもつて代物弁済を受けたときは、その弁済額の範囲内においては、右代物弁済は否認の対象にならない。
譲渡担保の目的物件をもつてなされた代物弁済は否認の対象になるか。
破産法72条1号,民法482条
判旨
譲渡担保権の設定されている目的物について代物弁済がなされた場合、その弁済額が担保されていた債権額の範囲内であれば、他の債権者を害するものとはいえず、詐害行為取消(破産法上の否認)の対象とならない。
問題の所在(論点)
譲渡担保の目的物について代物弁済がなされた場合、破産法上の否認権(詐害行為否認)の対象となるか。特に、既に担保権が設定されていたことによる優先弁済的地位が、否認の要件である「他の債権者を害する」か否かの判断にどう影響するか。
規範
特定の債務を担保するために譲渡担保権が設定されている場合、その目的物をもって当該債務の代物弁済に充てる行為は、担保権の実行としての性質を有する。したがって、当該譲渡担保契約自体が否認対象となる場合は格別、適法な担保権に基づく優先弁済の範囲内(担保権により担保されていた債権額の範囲内)で行われる代物弁済は、責任財産を不当に減少させず他の債権者を害しないため、否認権行使の対象とならない。
重要事実
破産会社Dは、上告会社に対する将来の融通手形債務の担保として、本件借室権を譲渡担保に供していた。その後、Dは支払停止に至り、上告会社に対し、上記手形債務を含む合計約170万円の債務の代物弁済として、本件借室権(時価約173万円)および什器・電話加入権を譲渡した。破産管財人(被上告人)は、この代物弁済が他の債権者を害するとして否認権を行使し、価額償還を求めた。原審は、代物弁済により譲渡担保は消滅しており、譲渡担保権の存在は否認権行使に影響しないとして請求を認容したため、上告会社が上告した。
あてはめ
本件において、借室権はもともと手形債権の担保として上告会社に譲渡担保提供されていたものである。代物弁済としてなされた譲渡であっても、そのうち手形債権を担保していた範囲内においては、上告会社は譲渡担保権者として優先弁済を受けるべき地位にある。このような優先的地位に基づき、担保権の目的物から債権回収を図る行為は、担保権がない場合とは異なり、他の債権者に対する配当原資を不当に減少させるものではない。もっとも、借室権の時価が担保債権額を超える部分や、そもそも担保の対象外であった売掛金債務に充当された部分については、他の債権者を害する可能性があるが、担保権により確保されていた範囲内では詐害性は否定される。
結論
譲渡担保権により担保されていた債権額の範囲内での代物弁済は、他の債権者を害しないため否認の対象とはならない。原審が譲渡担保権の存在を無視して全額の否認を認めたのは法令の解釈を誤った違法がある。
実務上の射程
本判決は、担保権の目的物を代物弁済として取得する場合の詐害性の判断基準を示したものである。答案上は、否認権や詐害行為取消権の「債害性」を論じる際、既設定の担保権の有無を確認し、優先弁済の範囲内であれば責任財産の減少を否定する論理として活用する。譲渡担保だけでなく、抵当権物件の代物弁済等の事案にも射程が及ぶ。
事件番号: 昭和37(オ)821 / 裁判年月日: 昭和40年7月8日 / 結論: 破棄差戻
破産法第七二条第一号にいわゆる「破産債権者ヲ害スル」とは債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることをいうものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和36(オ)275 / 裁判年月日: 昭和38年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産法上の詐害行為取消権における「破産者が破産債権者を害することを知りて」とは、単に他の債権者を害する認識があれば足り、加害の意図や意欲までは不要である。また、債務超過かつ資金繰り困難な状況下で、特定債権者の支払猶予の代償として唯一の安定した資産に担保を設定する行為は、原則として詐害行為に該当する…