一 信用金庫法に基づいて設立された信用金庫は、商法上の商人には当たらない。 二 信用金庫取引約定書四条四項は、取引先において信用金庫に対し、取引先がその債務を履行しない場合に、信用金庫の占有する取引先の手形等の取立又は処分をする権限及び取立又は処分によつて取得した金員を取引先の債務の弁済に充当する権限を授与する趣旨であり、右手形等につき、取引先の債務不履行を停止条件として譲渡担保権、質権等の担保権を設定する趣旨の規定ではない。 三 破産債権者が、破産者が債務の履行をしなかつたときには破産債権者の占有する破産者の手形の取立又は処分をしてその取得金を債務の弁済に充当することができる旨の条項を含む取引約定を締結した上、支払の停止又は破産の申立のあつたことを知る前に破産者から手形の取立を委任されて裏書交付を受け、支払の停止等の事実を知つた後破産宣告前に右手形を取り立てたことにより負担した破産者に対する取立金引渡債務は、破産法一〇四条二号但書にいう「支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知りタル時ヨリ前ニ生ジタル原因ニ基」づき負担したものに当たる。
一 信用金庫の商人性 二 信用金庫取引約定書四条四項の趣旨 三 破産債権者が支払停止又は破産申立前にされた取立委任に基づき支払停止又は破産申立のあつたことを知つてした手形の取立と破産法一〇四条二号但書
商法4条1項,信用金庫法1条,信用金庫法2条,信用金庫法(昭和56年法律第60号による改正前のもの)53条,民法1編4章1節,破産法104条2号
判旨
信用金庫は商法上の商人に当たらず商事留置権を援用できない。また、支払停止等を知る前に締結された充当条項付き取引約定に基づき、宣告前かつ知得後に発生した取立金債務は、破産法上の相殺禁止の例外である「前に生じた原因」に基づくものとして相殺が認められる。
問題の所在(論点)
①信用金庫に商事留置権が認められるか(商人性の有無)。②取引約定に基づく取立金充当権限が担保権としての性質を持つか。③支払停止等の知得後・破産宣告前に生じた取立金債務を自働債権とする相殺は、破産法上の相殺禁止規定に抵触するか(「前に生じた原因」の解釈)。
規範
1. 信用金庫は、協同組織による非営利の金融機関であるため、商法上の「商人」には該当せず、その業務につき商事留置権(商法521条)は成立しない。 2. 破産債権者が、支払停止等の事実を知る前に、取立金の債務弁済充当権限を含む取引約定を締結し、かつ個々の手形の取立委任を受けていた場合、支払停止等の知得後であっても破産宣告前に手形を取り立てて負担した債務は、破産法104条2号但書(現71条2項1号)にいう「前ニ生ジタル原因」に基づき負担した債務に該当し、相殺が許容される。
重要事実
債務者Dは信用金庫(上告人)との間で、債務不履行時に占有動産・手形等を処分・充当できる旨の約定(約定書4条4項)を含む取引約定を締結し、手形の取立委任をしていた。Dは支払停止後、破産宣告を受けた。信用金庫は、①Dの支払停止を知った後・破産宣告前(甲手形)および②破産宣告後(乙手形)にそれぞれ手形を取り立て、その取立金債務とDに対する手形買戻債権とを相殺すると主張した。なお、信用金庫は商人としての商事留置権の成立も主張した。
あてはめ
①信用金庫法に基づく信用金庫は営利を目的としないため商人に当たらず、特定の取引のみ商人として扱うこともできない。②約定書4条4項は単なる充当権限の授与であり、担保権を設定する趣旨ではないため、破産により委任関係が終了すれば消滅する。③しかし、相殺の担保的機能に対する期待保護の観点から、支払停止等の知得前に「相殺の期待を生じさせる具体的基礎(取引約定および個別手形の交付)」があれば、その後に発生した債務でも「前に生じた原因」に基づくといえる。本件では甲手形については宣告前に原因が具備されていたが、乙手形は宣告により委任が終了した後の不当利得債務であり相殺できない。
結論
信用金庫の商人性は否定され商事留置権は成立しない。また、破産宣告後に発生した取立金(乙手形)による相殺は認められないが、支払停止等知得後であっても破産宣告前に発生した取立金(甲手形)については、約定に基づく「前に生じた原因」があるため相殺が認められる。
実務上の射程
破産法上の相殺禁止(現71条)における「前に生じた原因」の範囲を、取引約定と個別的占有取得のセットで肯定した重要判例である。答案上は、単なる包括的約定だけでなく「具体的な手形の占有取得」が支払停止前にあることを摘示して「相殺の期待」を論理づける必要がある。また、信金の商人性否定も民商法の基礎知識として確立している。
事件番号: 昭和28(オ)1277 / 裁判年月日: 昭和29年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形振出人が手形債務を負担しない旨の約定が存在する場合、当該手形の授受の趣旨に照らし、手形債務は発生しない。 第1 事案の概要:上告人が被上告人に対し、本件手形に基づく手形金の支払を求めて提訴した。これに対し、被上告人は「手形債務を負担しない約定である」旨の抗弁を提出し、原審もこの事実を認定した。…