手形が甲(振出人)―乙―丙(所持人)の経路で丙によつて取得されたものでなく、甲−乙−丁の経路で丁が取得したが、丁は訴訟信託の目的で丙に譲渡したものであるから、丙に対しては支払義務がない旨の訴訟信託の抗弁を審理するに際し、丁は乙の債権者として右手形を取得する事情があるのに対し、丙にはそのような事情がなく、また丁と丙とは親戚関係にあつて判示のような密接な生活関係を有するほか、丙が手形を入手するについては振出人甲の信用状態等を調査したこともない等判示のような事実関係を確定し、他方該手形を譲り受けるに際し乙に交付したと丙の供述する割引金額は手形の額面金額をこえていることが証拠上窺われるのにかかわらず、特段の事情を示すことなく、右手形は甲―乙―丙の経路で丙が裏書譲渡を受けたものと認定することは、審理不尽・理由不備の違法がある。
手形取得の経路についての事実認定に審理不尽・理由不備の違法があるとされた事例
手形法17条,民訴法185条,民訴法395条1項6号
判旨
手形の取得者が、実質的には他者のために取立を目的として手形を譲り受けたにすぎない場合(いわゆる取立委託のための隠れた裏書)、当該取得者は信託法上の制限(現行信託法10条、旧信託法11条)に抵触し、手形上の権利を行使できない可能性がある。
問題の所在(論点)
手形の譲受人が、実質的には他者の債権回収を代行するために「隠れた取立委託」として手形を取得したといえる場合、信託法違反(訴訟信託の禁止)の抗弁が認められるか。
規範
訴訟信託の禁止(旧信託法11条、現行信託法10条)の観点から、受取人が自ら手形上の権利を行使せず、取立を主たる目的として他者に手形を譲渡し、受託者の名において権利を行使させる「隠れた取立委託」がなされた場合、当該譲渡は無効となり、受託者は振出人に対して手形金を請求できない。
重要事実
D商店は、倒産したE商店に対して約300万円の債権を有していたが回収できずにいた。被上告人Bは、D商店の代表者Fの親戚であり、同社の従業員として勤務していた。Bは格別の資産を有していなかったが、E商店の整理にあたっていたGから、本件手形(合計約48万円)を含む計4通の手形(合計約53万円相当)を、56万円を支払って譲り受けたと主張した。しかし、手形額面より高い金額で譲り受けるという一般の経済取引上の通念に反する事実があり、Bによる出捐や取得経緯には強い疑問があった。
あてはめ
まず、Bが支払ったとされる額(56万円)が取得した手形の合計額(約53万円)を上回っており、利息による利益を得るという動機と矛盾する。また、Bの経済力やD商店との密接な身分関係・生活関係に照らせば、Bが自己の資金で取得したとは考えがたい。さらに、裏書人欄の不自然な記載(銀行名の抹消とB名の記入状況)から、Bは自ら譲渡を受けたのではなく、D商店の使者・代理人として交付を受けたにすぎない蓋然性が高い。これらの事情は、D商店が上告人ら(振出人)に対して直接請求することを避け、Bに取立をなさしめるために形式上の譲渡を装ったことを推認させる。
結論
被上告人が実質的な譲受人であると認めるには審理不尽であり、取立目的の譲渡(信託法違反)の可能性があるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
手形金請求訴訟において、原告が債権回収業者や実体のない譲受人である場合に、信託法10条(旧11条)を根拠とする訴訟信託の抗弁を構成する際の重要判例。譲受人の経済的地位、取得対価と額面の不均衡、譲渡人との人的関係などの間接事実から「取立目的」を認定する手法を示している。
事件番号: 昭和47(オ)1233 / 裁判年月日: 昭和49年2月28日 / 結論: 破棄自判
約束手形の受取人甲が、乙からその手形の割引を受け、裏書をしないでこれを乙に交付したときは、甲は、指名債権譲渡の方法によつて乙に右手形債権を譲渡したものと解するのが相当である。