甲から手形割引の依頼を受けた乙が右手形を丙に譲渡した場合、甲は、乙が丙との間の人的関係に基づいて有する抗弁を援用して、丙の手形金請求を拒むことはできない。
手形抗弁の個別性。
手形法17条
判旨
手形取得者が、譲渡人との間で別手形の割引金の代わりに当該手形を譲り受けた場合、譲渡の当事者でない手形債務者は、譲渡の対価関係における過不足を理由として手形金の支払を拒むことはできない。
問題の所在(論点)
手形の譲渡人と譲受人の間における対価関係の不均衡(差額の存在)という事情を、譲渡の当事者ではない手形債務者が、所持人に対する支払拒絶の抗弁として主張できるか。
規範
手形法17条に規定される人的抗弁の切断の原則に基づき、手形債務者は、手形の所持人がその債務者を害することを知って手形を取得したとき(害意ある取得)を除き、所持人の前主(譲渡人)に対する抗弁をもって所持人に対抗することはできない。特に、手形譲渡の当事者間における対価関係の有無や不均衡といった事情は、当該譲渡の当事者以外の第三者である手形債務者が援用し得る抗弁には当たらない。
重要事実
振出人(上告人)は本件約束手形を振り出し、Fに交付した。Fは本件手形につき割引依頼を受けていたが割り引くことができず、本来であれば依頼人に返還すべきものであった。しかし、FはD社に対し、自身が支払うべき別手形2通(合計20万円)の割引金の代わりとして、本件手形を譲渡した。その後、手形は被上告人へと渡った。上告人は、D社が受領した本件手形の金額が、本来Fが支払うべき金額を上回る差額が生じていること等を理由に、支払を拒絶した。
あてはめ
本件において、D社の代表者は、Fが本件手形を依頼人に返還すべきものであることを知らずに取得しており、害意(手形法17条但書)は認められない。また、FからD社への手形譲渡は、別手形の割引金債務の代物弁済的な性質を有するものであるが、この譲渡に伴って対価との間に差額が生じていたとしても、それは譲渡当事者であるF・D社間の内部的な問題に過ぎない。したがって、この譲渡の当事者ではない上告人が、当該関係を理由に被上告人の請求を拒むことは許されない。
結論
手形譲渡の当事者間における対価関係の不備を、譲渡の当事者でない債務者が抗弁として主張することはできず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
手形行為の無因性と人的抗弁の非承継性を再確認する事例。譲受人に害意がない限り、譲渡当事者間の原因関係や対価の過不足は、第三者である手形債務者からの支払拒絶理由にならないことを示す。司法試験においては、手形法17条の抗弁の制限を論じる際の補充的な論拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)330 / 裁判年月日: 昭和43年12月25日 / 結論: 棄却
自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人は、その後右債権の完済を受けて裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のないかぎり、以後右手形を保持すべき正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき実質的理由を失つたものであつて、右手形を返還しないで自己が所持するのを奇貨として、自己の形式的権利…