手形受取人は、裏書譲渡の意思で被裏書人白地のまま当該手形に署名をした場合には、原判決判示の事情(原判決理由参照)により手形を譲受人に交付することなくそのまま振出人に返還した場合でも、右手形の適法の所持人に対し手形債務を負担する。
手形に白地式による裏書の署名をした者が譲受人に手形を交付せず、振出人に返還した場合において手形債務の負担が認められた事例
手形法15条
判旨
署名者が他に裏書譲渡する意思で署名し、第三者の入手するところとなった場合には、交付欠缺があっても善意の第三取得者に対して手形債務を負担する。
問題の所在(論点)
手形に裏書譲渡の意思で署名したが、署名者の真意に基づかない経緯で流通した場合(交付欠缺)、署名者は善意の第三者に対して手形債務を負担するか。
規範
手形債務の成立には、手形上の署名及び手形の交付が必要であるが、署名者が裏書譲渡の意思をもって署名し、これが署名者の意思に基づかずに流通した場合であっても、外観を信頼して手形を取得した善意の第三者との関係では、交付欠缺を理由に責任を免れることはできない。
重要事実
振出人F、受取人兼裏書人上告人とする約束手形において、上告人は他に裏書譲渡する意思で署名をした。その後、上告人において本件手形を振出人に返還する意思があり、第三者Eが手形を持ち帰ることを暗黙のうちに了承していたところ、本件手形が第三者の入手するところとなった。被上告人は、被裏書人を白地とする本件手形を所持し、上告人に対し手形金の支払を請求した。
あてはめ
上告人は、本件手形を他に裏書譲渡する意思で署名したものであり、形式的な裏書の要件を具備している。また、第三者が手形を持ち出すことを暗黙に了承していたという経緯により手形が流通したものである。被上告人は本件手形を所持しており、手形法16条1項により適法の所持人と推定される。上告人から被上告人が悪意であることの主張・立証がない以上、上告人は適法な所持人である被上告人に対して手形債務を負担すると解される。
結論
上告人は、適法な所持人である被上告人に対して手形債務を負担する。したがって、被上告人の手形金請求を認めた原判決は妥当である。
実務上の射程
手形理論における交付欠缺(権利外観構成)の事案であり、署名者に「流通させる意思」が認められる限り、交付という事実上の行為に瑕疵があっても善意取得者が保護されることを示した。答案上は、交付欠缺の論点において、手形理論(創造説・発行説・権利外観説)の文脈で、署名者に帰責性がある場合の処理として援用する。
事件番号: 昭和41(オ)586 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
会社の資力を仮装するため単に見せ手形として使用する約束のもとに振出人欄に記名押印し振出日および受取人欄を空欄として交付された約束手形につき、相手方が約旨に反して右空欄を補充した場合であつても、さらに裏書譲渡を受けた所持人が悪意重過失なくして右約束手形を取得したものである以上、振出人は所持人に対して手形金支払義務を負うも…