会社の資力を仮装するため単に見せ手形として使用する約束のもとに振出人欄に記名押印し振出日および受取人欄を空欄として交付された約束手形につき、相手方が約旨に反して右空欄を補充した場合であつても、さらに裏書譲渡を受けた所持人が悪意重過失なくして右約束手形を取得したものである以上、振出人は所持人に対して手形金支払義務を負うものと解すべきである。
白地補充権なくして白地要件が補充された約束手形につき振出人に手形金支払義務があるとされた事例
手形法77条2項,手形法10条
判旨
手形要件が白地のまま記名押印して交付された書面が、通常の白地手形の外観を有し、後に白地が補充されて流通することが当然に予想される場合、振出人は善意・無重過失の取得者に対して手形債務を負う。
問題の所在(論点)
手形要件を欠いた不完全な手形が交付され、後に補充された上で流通した場合において、振出人は善意の第三者に対して手形上の責任を負うか。交付欠缺や白地補充権の有無が争点となる場面における、振出人の責任の有無が問題となる。
規範
手形要件の一部を白地のまま記名押印し、通常の白地手形の外観を有する書面を他人に交付した者は、その白地が補充されて転々流通することが当然に予想し得る場合には、手形法10条、77条2項の類推適用により、当該手形を善意または無重過失で取得した所持人に対して、手形振出人としての責任を免れることができない。
重要事実
上告人は、手形要件の一部を白地にした状態で約束手形用紙に記名押印し、株式会社Dの代表取締役Eにこれを交付した。当該書面は通常の白地手形としての外観を備えており、後にその白地部分が補充された上で転々流通し、最終的に被上告人がこれを取得するに至った。
あてはめ
上告人は自ら記名押印した白地手形を他人に交付しており、客観的に白地手形としての外観を作り出している。このような書面を交付した以上、第三者によって白地が補充され、流通に置かれることは当然に予想し得たといえる。したがって、手形の外観に対する信頼を保護すべき要請が強く、権利外観法理に基づき、悪意または重大な過失のない所持人に対しては、振出人としての責任を負担すべきであると評価される。
結論
上告人は、手形を取得した所持人に対し、手形金の支払義務を負う。本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「白地手形の交付」の場面において、補充権の授与に疑義がある場合でも、外観を作り出した者の責任を認める権利外観法理(手形法10条類推適用)の典型例として位置づけられる。答案上は、交付欠缺や補充権の逸脱が問題となる事案で、振出人の帰責性と取得者の信頼保護を対比させる際の根拠として活用すべきである。
事件番号: 昭和40(オ)749 / 裁判年月日: 昭和40年12月10日 / 結論: 棄却
手形の署名自体は、事実行為であつて意思表示ではないから、これにつき代理はありえない。