手形法第一〇条の規定は、白地手形を取得した所持人が自ら補充に関する合意と異なる補充をした場合にも、適用される。
所持人が白地手形の補充をした場合と手形法第一〇条の適用
手形法10条
判旨
白地約束手形につき合意と異なる補充がなされた場合、その違反は、既に補充された手形を善意無重過失で取得した所持人のみならず、白地手形を善意無重過失で取得した上で自ら補充した所持人にも対抗できない。
問題の所在(論点)
手形法10条は、補充済みの手形を第三者が取得した場合の規定であるが、白地手形を善意・無重過失で取得した所持人が自ら合意に反する補充をした場合にも、同条が類推適用されるか、又は同条の保護対象に含まれるかが問題となる。
規範
手形法77条2項・10条の規定は、既に補充権の濫用(合意と異なる補充)がなされた後の手形を、悪意又は重大な過失なく取得した所持人を保護するだけでなく、悪意又は重大な過失なく白地手形を取得し、その後自ら補充をした所持人を保護する場合にも適用される。
重要事実
約束手形の振出人が、受取人との間で補充権の行使に関する合意(白地補充の合意)をあらかじめ行っていた。しかし、当該白地手形を取得した所持人が、その合意内容とは異なる内容で白地部分を自ら補充した。振出人は、補充権の濫用を理由として手形金支払義務を免れようと、所持人に対して補充権の行使が合意に違反している旨を対抗した(具体的な金額や日付等の事実関係については判決文からは不明)。
あてはめ
手形法10条は、手形取引の安全を確保し、白地手形の流通を促進する趣旨である。所持人が白地手形を取得する際、補充権の合意内容について悪意又は重大な過失がなければ、その信頼は保護されるべきである。したがって、既に補充された手形を取得したか、自ら補充したかという形式の違いによって、善意の所持人の保護に差を設ける合理的理由はなく、後者の場合であっても同条の適用範囲に含まれると解される。
結論
白地手形を悪意又は重大な過失なく取得し、自ら合意と異なる補充をした所持人に対し、振出人は合意違反を対抗できない。
実務上の射程
白地手形の不当補充に関する基本判例である。答案上は、10条が「第三者」だけでなく「取得後に自ら補充した者」も保護する点について、文言の字義通りではなく、権利外観理論や取引安全の観点から広く解釈する根拠として活用する。
事件番号: 昭和29(オ)220 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
株式会社を振出人とする約束手形による金融依頼のため、手形用紙に会社取締役が振出人として署名したが、受取人、金額、満期等の手形要件は白地とし、金融をえられることが確定した後会社監査役においてすべてこれを補充する約束で交付したときは、交付を受けた者が約束に反し右手形を他に譲渡し、転々途上において右白地要件が手形取得によつて…