訴訟行為をさせることを主たる目的としてされた手形の裏書は、隠れた取立委任のためにされたものにほかならないが、右の場合には、信託法一一条の規定により、たんに手形外の取立委任の合意が無効となるにとどまらず、裏書自体も無効となり、すべての手形債務者は、被裏書人たる所持人が手形上無権利者であることを主張してその手形上の請求を拒絶することができる。
訴訟行為をさせることを主たる目的としてされた手形の裏書と手形抗弁
手形法77条1項1号,手形法14条,手形法17条,信託法11条,信託法1条
判旨
訴訟行為をさせることを主たる目的としてなされた隠れた取立委任裏書は、信託法11条(現行信託法10条)に違反し、裏書自体が無効となる。
問題の所在(論点)
訴訟行為を主たる目的としてなされた「隠れた取立委任裏書」が、信託法上の訴訟信託の禁止に触れ、無効となるか。特に、裏書という手形上の行為自体の効力が否定されるかが問題となる。
規範
隠れた取立委任裏書は、裏書人が自己の有する手形債権の取立のため、その手形上の権利を信託的に被裏書人に移転するものと解される。そして、信託法(現行10条)は訴訟行為をさせることを主たる目的として財産権の移転その他の処分をなすことを禁じ、これに違反する行為を無効とする。したがって、訴訟行為を主たる目的として隠れた取立委任裏書がなされた場合、手形外の取立委任の合意のみならず、手形上の権利移転行為である裏書自体も無効となる。
重要事実
訴外Dは、上告人に対し、訴訟行為をなさしめることを主たる目的として本件手形の裏書をした。この裏書は譲渡裏書の形式をとっていたが、実態は取立委任のためになされた「隠れた取立委任裏書」であった。上告人は本件手形に基づき、被上告人らに対して手形金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
本件裏書は、訴外Dが上告人に訴訟行為をさせることを主たる目的としてなされたことが原審により確定されている。隠れた取立委任裏書は手形上の権利を信託的に移転させるものであるところ、本件は訴訟行為を目的とする財産権の移転(訴訟信託)に該当する。そのため、信託法の禁止規定(現行10条)が適用され、その裏書行為は効力を生じない。その結果、上告人は有効に手形上の権利を取得したとはいえない。
結論
本件裏書は無効であり、上告人は手形上の権利を有しない。したがって、被上告人らは上告人の請求を拒絶することができる。
実務上の射程
隠れた取立委任裏書の法的性質について「信託説」を明示した点に意義がある。司法試験では、訴訟信託の禁止が手形法理と交錯する場面で、裏書そのものの効力を否定する根拠として本規範を用いる。なお、大隅意見のような「授権説」を採る場合でも、信託法の類推適用により同様に無効とされる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和47(オ)1233 / 裁判年月日: 昭和49年2月28日 / 結論: 破棄自判
約束手形の受取人甲が、乙からその手形の割引を受け、裏書をしないでこれを乙に交付したときは、甲は、指名債権譲渡の方法によつて乙に右手形債権を譲渡したものと解するのが相当である。