判旨
既存の債務を担保するために定期預金に質権を設定し、その後その預金が書き換え継続された場合、新たな担保供与とは認められないため、否認権(現行破産法160条等)の対象とはならない。
問題の所在(論点)
定期預金の書換えに伴う担保の継続が、破産法上の否認権(特定の債権者に対する担保供与等)の対象となる「新たな法律行為」に該当するか。
規範
既存の債務を担保するために設定された質権が、担保対象である定期預金の書換え継続に伴って更新されたに過ぎない場合には、実質的に新たな担保供与が行われたものとは評価できず、支払停止前の正当な担保供与として否認権行使の対象外となる。
重要事実
破産者は、昭和26年8月に被上告銀行に対し、現在および将来の債務を担保するため、当時預入していた定期預金に質権を設定した。この定期預金はその後書換え継続され、昭和28年1月に預入された定期預金へと引き継がれていた。上告人(破産管財人)は、昭和28年6月20日に行われた行為を「新たな担保供与」であると主張し、旧破産法72条1号または2号(現行160条1項各号等に相当)に基づき否認権を行使した。
あてはめ
本件における質権設定は、昭和26年8月の時点で既になされており、その後の定期預金の書換えは形式的な手続に過ぎない。昭和28年1月の預金も従前の担保関係を維持・継続するものであって、昭和28年6月当時に新たに担保権を創設した事実は認められない。また、当該行為の当時、破産者は支払停止の状態になく、受益者である銀行も破産債権者を害する事実を知らなかった。したがって、否認権の要件を充足しない。
結論
本件各法律行為は、実質的な新たな担保供与とはいえず、破産法上の否認権を行使することはできない。
実務上の射程
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…
担保の「書換え」や「更新」が行われた際、それが実質的に既存の担保関係の継続に過ぎないのか、それとも新たな権利の設定なのかを区別する際の指針となる。実務上は、書換え前後での債権・担保の同一性や、設定当時の支払停止・悪意の有無を峻別して検討する材料として用いる。
事件番号: 昭和39(オ)166 / 裁判年月日: 昭和42年5月2日 / 結論: 棄却
破産者が支払停止以前にした本旨弁済でも、その弁済が他の債権者を害することを知つてされたものであるときは、破産法第七二条第一号により否認することができる。
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。