判旨
強制執行の便宜のために消費貸借契約に関する公正証書を作成したとしても、直ちに旧債務を消滅させて新債務を成立させる更改の意思表示があったとは認められない。
問題の所在(論点)
強制執行の便宜のために消費貸借契約公正証書が作成された場合に、民法513条の更改の意思表示があったと認められるか。
規範
更改(民法513条)が成立するためには、旧債務を消滅させ、これに代えて新債務を成立させることについての当事者間の合意(更改の意思表示)が必要である。単に債務の内容を公証し、強制執行を容易にする目的で公正証書を作成したにすぎない場合は、特段の事情のない限り、更改の意思表示があったとは認められない。
重要事実
上告人は、甲第二号証の消費貸借契約公正証書が作成されたことにより、従来の債務について更改(旧債務の消滅と新債務の成立)があった旨を主張した。しかし、原審の事実認定によれば、当該公正証書は「もっぱら強制執行の便宜のため」に作成されたものであった。
あてはめ
本件において、公正証書の作成目的は強制執行の手続きを簡便にするという実務上の便宜にあり、既存の債務関係を法的に消滅させて全く新しい債務に置き換えるという「更改の意思」に基づくものではない。したがって、公正証書の存在のみをもって、所論のような更改の意思表示があったという事実は認められない。
結論
更改の意思表示があった事実は認められず、旧債務の消滅を前提とする上告人の主張は採用できない。
実務上の射程
公正証書の作成が必ずしも債務の内容の変更や更改を意味しないことを示した。答案上は、債務の同一性が維持されているか(あるいは更改により消滅したか)が問題となる場面で、作成目的という主観的態様を重視して更改の成否を否定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)415 / 裁判年月日: 昭和37年5月24日 / 結論: 破棄自判
甲の代理人丙が、その権限をこえて乙との間に甲所有の不動産につき乙のために根抵当権設定契約を締結し、かつ甲名義の偽造登記申請委任状によつてその登記をなした場合、右設定契約を締結しおよび登記申請委任状を乙に交付する等登記申請に協力する関係において、乙が丙に右設定契約の締結ならびに登記の申請について甲の代理権ありと信ずべき正…
事件番号: 昭和36(オ)15 / 裁判年月日: 昭和38年10月10日 / 結論: その他
売買一方の予約に基づいて売買本契約が成立した場合は、売買予約締結当時を基準として詐害行為の要件の具備の有無を判断すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)277 / 裁判年月日: 昭和44年7月25日 / 結論: 棄却
当事者間において将来金銭その他の物を給付する債務を生ずることがあるべき場合、これを準消費貸借の目的とすることを約し得るのであつて、その後該債務が生じたとき、その準消費貸借は当然にその効力を生ずる(昭和四〇年(オ)第二〇〇号、同四〇年一〇月七日第一小法廷判決、民集一九巻七号一七二三頁参照)。
事件番号: 昭和30(オ)247 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: その他
債務者が、他の債権者に十分な弁済をなし得ないためその利益を害することになることを知りながら、ある債権者のために根抵当権を設定する行為は、詐害行為にあたるものと解すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)632 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない