被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない
被担保債権である現存の債権および条件付債権を現存の貸金債権としてなされた抵当権設定登記の効力
不動産登記法117条
判旨
当事者が真実抵当権を設定する意思で登記手続を終えた以上、登記原因等の記載が真実の権利関係と一致しなくても、当然に無効とはならない。また、特定の数個の債権を一定金額の限度で担保する一個の抵当権や、将来発生の可能性がある条件付債権を担保する抵当権の設定も有効である。
問題の所在(論点)
1. 将来の条件付債権や複数の債権を一個の抵当権で担保することの可否。2. 登記原因などの記載が真実の被担保債権の態様と異なる登記(不実の登記)の有効性と、設定者による抹消請求の可否。
規範
1. 抵当権設定の登記において、原因事実等の記載が事実に吻合しない場合であっても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、当該登記を当然に無効と解すべきではない。2. 当事者間の合意によって、特定の数個の債権を一定金額の限度で担保する一個の抵当権を設定すること、および将来発生の可能性のある条件付債権を担保するために抵当権を設定することは、いずれも有効である。
重要事実
上告人(抵当権設定者)は被上告人に対し、将来の求償債務を重畳的に引き受ける債務と、別途の金10万円の債務を合わせ、金100万円を限度として担保するため本件抵当権を設定した。しかし、登記上は便宜上「金100万円を借り受けた」という消費貸借を原因とする抵当権設定登記がなされた。その後、上告人が当該登記は虚偽表示であり、かつ実体と整合しないとして抹消を求めた事案である。
事件番号: 昭和32(オ)416 / 裁判年月日: 昭和33年10月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の所有権移転登記および抵当権設定登記が本人の承諾に基づいてなされた場合には、当該登記は有効であり、意思に基づかない無効な登記であると主張することはできない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産についてなされた所有権移転登記および抵当権設定登記が自らの意思に基づかない無効なものであると主張…
あてはめ
本件では、当事者間に真実抵当権を設定する意思があり、その担保すべき範囲(100万円)についても合意が存在した。被担保債権の大部分が将来の条件付債権であり、登記上の「金銭消費貸借」という記載と実体は一致しないが、登記をする意思に基づいてなされた以上、実体的な担保権の公示として機能している。したがって、登記が事実に吻合しないことのみをもって無効と断じることはできず、上告人からの抹消請求は認められない。また、被担保債権の構成が複数(求償債務の引受けと既存債務)であっても、一定額の限度で担保する合意は有効である。
結論
本件抵当権設定および登記は有効であり、抵当権設定者は登記が事実に吻合しないことを理由としてその抹消を請求することはできない。
実務上の射程
登記の有効性に関する「実体関係との合致」の法理を示す。特に、被担保債権の種類や発生原因が登記と異なっていても、担保権設定の合意と登記意思があり、債権の同一性・範囲に実質的な齟齬がなければ、設定者からの抹消請求を封じる論拠となる。根抵当権制度(昭和46年改正)導入前の判例であるが、特定抵当権における包括的・流動的な運用を認めた点で意義がある。
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…
事件番号: 昭和39(オ)321 / 裁判年月日: 昭和40年2月19日 / 結論: 棄却
昭和三三年一二月一六日の抵当権設定契約を原因とする登記の記載が昭和三三年一〇月一五日付抵当権設定契約に因るものとされていても、右の程度の相違は登記の無効をきたさない。
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
事件番号: 昭和33(オ)767 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記手続において、代理人が本人及び相手方の双方を代理する場合であっても、それが既に成立している法律関係に基づく登記義務の履行であるときは、民法108条本文の禁止する双方代理には当たらない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間の不動産取引に関連し、特定の書面(丙第2号証)が上告人の意思に基…