甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求する場合、右請求を認容するにつき、債権者と債務者が甲建物に対する抵当権設定を合意した事実を認定しながら、乙丙建物が甲建物の従物であるかのごとく窺われる証拠ならびに民法八七条二項の適用につき顧慮した形跡がないときは、審理不尽、理由不備の違法があり、また、判示の趣旨が甲建物のみに対する抵当権の設定を合意し、乙丙建物は除外したというにあるとすれば、債務者において、前期請求に代え、乙丙建物を前期抵当権設定登記の目的物から取り除くことを目的とする別個の登記請求をするかどうかの点を審理することなく、前記請求をそのまま全面的に認容したことは、審理不尽、理由そごの違法がある。
抵当権設定登記の抹消登記手続請求を認容した判断に審理不尽、理由不備の違法があるとされた事例。
民法177条,民法87条2項,民訴法395条6号
判旨
登記の記載が実体的な権利関係と厳密に一致しない場合でも、両者の間に同一性が認められるときは、その登記は有効であり抹消を請求できない。また、目的物の一部について実体関係との不一致があるに過ぎない場合、その登記全部の抹消を求めることは許されない。
問題の所在(論点)
登記上の表示(設定者、被担保債権、目的物の範囲)と実体的な権利関係に不一致がある場合、当該登記の効力および全部抹消請求の可否が問題となる。
規範
登記が有効であるためには、原則として登記の記載に符合した実体法上の権利関係が存在することを要する。しかし、登記の記載内容と実体関係が厳密に一致しない場合であっても、両者の間に「同一性」が認められるときは、なおその登記は有効である。また、登記の一部が実体関係に符合している場合には、不一致の部分があることを理由に登記全部の抹消を求めることはできない。
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
重要事実
上告人は、被上告人Bに対する貸金債権を担保するため、建物(一)に抵当権を設定する合意を得た。しかし、実際の登記には、建物(一)だけでなく、その付属建物ないし従物とも疑われる建物(二)(三)を一体の目的物として記載し、さらに設定者や被担保債権の内容についても実体関係と一部異なる記載がなされていた。被上告人らは、登記内容と実体関係が一致せず同一性がないとして、本件抵当権設定登記全部の抹消を求めた。
あてはめ
まず、抵当権設定者および被担保債権の内容に関する不一致は、原審が判示した程度の差異であれば、いまだ実体関係との同一性を否定するに足りない。次に、目的物について、建物(二)(三)が建物(一)の従物である可能性があるにもかかわらず、これを除外する特約がない以上、民法87条2項により抵当権の効力が及ぶ可能性がある。仮に同一性が否定される場合であっても、建物(一)については抵当権設定の合意が厳存しており、登記の一部は実体関係に符合している。そうであれば、不一致部分があるからといって登記全部を抹消することは許されず、更正登記等による是正を検討すべきである。
結論
登記の記載と実体関係との間に同一性が認められる限り、当該登記は有効である。また、一部に実体との符合がある以上、登記全部の抹消請求は認められない。
実務上の射程
登記の有効性に関する「同一性」の法理を確認した事例である。答案上は、登記の更正が可能な場合に全部抹消を求めることが「物権的請求権の濫用」あるいは「実体関係への符合」の観点から制限される根拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)977 / 裁判年月日: 昭和38年5月31日 / 結論: その他
主たる建物の登記部分のみが無効である場合は、その部分のみの抹消を許すべきであつて、附属建物を含めた全部の登記の抹消を許すべきではない。
事件番号: 昭和30(オ)632 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない
事件番号: 昭和35(オ)276 / 裁判年月日: 昭和37年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者の主張する契約関係と裁判所が認定した契約関係との間に社会観念上の同一性が認められる場合、裁判所が当該認定に基づき判決しても処分権主義に反しない。また、主たる賃貸借契約が終了した場合、これに付随し運命を共にする趣旨の従たる転貸借契約も当然に終了する。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)は、建…
事件番号: 昭和32(オ)748 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権取得に関する当事者双方の主張事実が証拠上認められない場合、公簿(登記簿等)の記載をもって一応真実の権利状態に適合するものと推定し、事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:本件家屋の所有権取得をめぐり、原告・被告双方が自己の所有権を主張したが、原審において双方の主張する取得原…