登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
実体的権利関係に符合する登記に対する登記抹消請求は許されるか。
民法177条
判旨
実体上の権利者の意思に基づかずになされた登記であっても、それが現在の実体的な権利関係に合致するものである限り、その抹消を請求することはできない。
問題の所在(論点)
登記手続が権利者の意思に基づかない不当な方法(印鑑盗用等)でなされた場合であっても、その登記の内容が現在の実体的な権利関係と一致していれば、当該登記の抹消請求を拒絶できるか。
規範
不動産登記が権利者の意思に基づかない手続によりなされたものであっても、その登記の内容が現在の実体的な権利関係(真実の所有権の帰属等)に符合する場合には、当該登記は有効なものとして取り扱われ、抹消請求は認められない。
重要事実
上告人(原告)と被上告人(被告)との間で本件建物の所有権帰属が争われた事案。被上告人は上告人の印鑑を盗用する等の不当な方法で、自己の名義に所有権取得登記を経由した。上告人は契約解除に基づき所有権が自己に帰属すると主張して登記の抹消を求めたが、裁判所は契約解除を無効と判断し、所有権は依然として被上告人に存在すると認定した。
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…
あてはめ
本件建物の所有権取得登記は、上告人の意思に基づかずになされたものであり、その手続過程には瑕疵が認められる。しかし、実体法上の権利関係を検討すると、上告人が主張する契約解除は無効であり、本件建物の所有権は依然として被上告人に帰属している。そうであれば、現在の登記名義(被上告人)は真実の権利関係と一致しているといえる。登記制度の本旨は現在の権利状態を公示することにあるため、実体関係に合致する以上、手続上の不備を理由に抹消を求めることはできないと解される。
結論
登記が現在の実体的権利関係に符合する以上、登記抹消請求は認められない。
実務上の射程
物権的請求権(妨害排除請求としての登記抹消請求)に対し、実体関係との合致を抗弁として主張する際の根拠となる。判決文からは不明だが、通常は中間省略登記や代物弁済の予約完結など、物権変動の過程に不備があるが現在の帰属が正しいケース全般に射程が及ぶ。
事件番号: 昭和33(オ)1128 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
甲が乙から宅地を買受けその旨の所有権取得登記を経由したのち、乙の債務不履行を原因として右売買契約が解除された場合には、甲は乙に対し右登記の抹消登記手続を求めることができる。
事件番号: 昭和32(オ)748 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権取得に関する当事者双方の主張事実が証拠上認められない場合、公簿(登記簿等)の記載をもって一応真実の権利状態に適合するものと推定し、事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:本件家屋の所有権取得をめぐり、原告・被告双方が自己の所有権を主張したが、原審において双方の主張する取得原…
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…
事件番号: 昭和35(オ)504 / 裁判年月日: 昭和38年4月2日 / 結論: 棄却
右登記が右仮登記の本登記手続としてなされ、所有権取得の権利の実際に合致し、登記義務者の意思に基づいてなされたものである以上、当該本登記の抹消登記手続を求めることはできない。