甲が乙から宅地を買受けその旨の所有権取得登記を経由したのち、乙の債務不履行を原因として右売買契約が解除された場合には、甲は乙に対し右登記の抹消登記手続を求めることができる。
登記名義人が当該登記の抹消登記手続を求めることが許されるとされた事例。
不動産登記法26条1項
判旨
真実の権利関係に合致しない登記がある場合、登記当事者の一方は他方に対し、登記を真実に合致させることを内容とする登記請求権を有し、他方はこれに協力する義務を負う。売買契約が解除された場合、買主名義の所有権取得登記を抹消することは、物権変動の消滅を公示し実体関係を復元させるための正当な権利行使である。
問題の所在(論点)
売買契約の解除により登記が実体的な権利関係と合致しなくなった場合、登記名義人(買主)から相手方(売主)に対して、当該登記を抹消するよう求める登記請求権が認められるか。
規範
真実の権利関係に合致しない登記が存在する場合、その登記の当事者の一方は、登記を真実に合致させることを内容とする登記請求権を有し、他方はこれに協力する義務を負う。
重要事実
上告人(売主)と被上告人(買主)の間で、上告人が所有する宅地の売買契約が締結され、被上告人への所有権取得登記が経由された。しかし、売主である上告人が売買契約の条件を履行しなかったため、買主である被上告人は当該売買契約を解除した。被上告人は、契約解除に伴い、真実の権利関係(所有権の復帰)に合致させるため、自己の名義となっている当該登記の抹消登記手続を上告人に対して求めた。
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
あてはめ
本件では、売買契約が解除されたことにより、被上告人の所有権取得登記は実体的な権利関係(契約の遡及的消滅)を反映しないものとなった。この場合、登記を真実に合致させるべき義務が発生する。買主である被上告人が自ら登記の抹消を求めている以上、売主である上告人はこの抹消登記手続に協力すべき義務を負うといえる。したがって、真実の権利関係に合致しない登記を是正するための登記請求を認めた原審の判断は正当である。
結論
売買契約解除による登記抹消請求は認められる。したがって、上告人の抹消登記協力義務を認めた原判決は維持され、上告は棄却される。
実務上の射程
登記請求権の発生原因が「実体関係との不一致」にあることを示した点に意義がある。判決文では明示されていないが、物権的登記請求権(物権的妨害排除請求権)の一類型、あるいは登記保持権の裏返しとしての性格を有すると解される。答案上は、契約解除後の原状回復(民法545条1項)に伴う登記の処理について、権利の帰属が実体と異なることを理由に請求を基礎付ける際に活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)1208 / 裁判年月日: 昭和36年4月28日 / 結論: 棄却
不動産につき甲、乙、丙と順次所有権が移転したものとして順次所有権移転登記がなされた場合において、各所有権移転行為が無効であるときは、甲が乙、丙に対し各所有権移転登記の抹消登記請求権を有するほか、乙もまた丙に対し所有権移転登記の抹消登記請求権を有する。
事件番号: 昭和31(オ)793 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上の要件を欠く家督相続人選定は無効であり、戸籍上の記載が抹消された後は、表見相続人として権利者たる保護を受ける余地はない。真正相続人以外の第三者であっても、表見相続人が自ら権利を主張する場合には、その相続の無効を争い得ると解される。 第1 事案の概要:被相続人Fが死亡し、法定・指定の家督相続人…
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…