原告が家督相続人であると主張する場合に、家督相続回復の訴をまたずして、その者を正当の家督相続人でないと認定してよいとした事例。
判旨
法律上の要件を欠く家督相続人選定は無効であり、戸籍上の記載が抹消された後は、表見相続人として権利者たる保護を受ける余地はない。真正相続人以外の第三者であっても、表見相続人が自ら権利を主張する場合には、その相続の無効を争い得ると解される。
問題の所在(論点)
法律上の選定手続を欠く無効な家督相続人が、戸籍上の記載を抹消された後においてもなお「表見相続人」として、第三者に対して相続財産の所有権を主張できるか、また、第三者がその相続の無効を対抗できるか。
規範
1. 法律上の手続(旧民法982条等の親族会招集・許可)を経ない家督相続人の選定は当然に無効である。 2. 表見相続人が第三者に対し、相続による権利取得を主張して登記抹消等を請求する場合、相手方がこれを争う以上、表見相続人は一般原則に従い自己が正当な相続人であることを立証しなければならない。裁判所は、真正相続人からの相続回復請求がないことのみをもって、当然に表見相続人を権利者と認定すべきではない。
重要事実
被相続人Fが死亡し、法定・指定の家督相続人が不在であったため、親族の事実上の集まりで上告人を家督相続人と定めた。しかし、管轄裁判所への親族会招集や順位変更の許可申請等の法的義務手続は一切行われなかった。その後、上告人を家督相続人とする戸籍届出および本件不動産の相続登記がなされたが、後に被上告人(Fの妻)の申請による戸籍訂正審判によって上告人の相続記載は抹消された。上告人は、自身が表見相続人であることを理由に、不動産所有権の取得を主張して被上告人らに対し登記抹消を請求した。
あてはめ
上告人の家督相続人選定は、旧民法の定める厳格な手続に反しており当然に無効である。上告人が相続によって本件不動産の所有権を取得し得ないことは明白である。また、表見相続人の保護は、真正相続人から相続回復請求を受けない限りで事実上の地位を保有するにとどまるものであり、積極的に権利を取得させるものではない。本件では、戸籍訂正の審判により上告人の相続人たる記載は既に抹消されており、もはや戸籍上の外観も存在しない。したがって、上告人が表見相続人として保護を受けるべき理由はない。
事件番号: 昭和27(オ)128 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)…
結論
上告人は正当な家督相続人ではなく、戸籍上の外観も失われている以上、第三者に対して所有権を主張して登記抹消を請求する権利を有しない。請求棄却。
実務上の射程
相続回復請求権制度における「表見相続人」の地位の限界を示した事例。表見相続人が「被告」として真正相続人以外の第三者から争われた場合に保護される判例(最判昭32.9.19)とは異なり、表見相続人が「原告」となって積極的に権利主張する場面では、厳格に相続の正当性が問われることを示唆している。事実上の相続人による権利主張を制限する際の論拠として有用。
事件番号: 昭和33(オ)1128 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
甲が乙から宅地を買受けその旨の所有権取得登記を経由したのち、乙の債務不履行を原因として右売買契約が解除された場合には、甲は乙に対し右登記の抹消登記手続を求めることができる。
事件番号: 昭和28(オ)111 / 裁判年月日: 昭和31年7月27日 / 結論: 破棄差戻
不動産の譲渡人から与えられた代理権に基き、譲渡人の死亡後同人の代理人名義の申請によつてなされた移転登記は、それが現在の真実な権利状態に符合するものである限り、対抗力を有し、譲渡人の相続人は譲受人に対し、その抹消を請求することはできない。
事件番号: 昭和35(オ)73 / 裁判年月日: 昭和37年9月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買の周旋を依頼された者が、実際の買主の存在を告げずに自己の名義で売買代金を支払い、自己宛の領収書を受け取った場合であっても、所有権を依頼者に帰属させる趣旨で周旋を行ったに過ぎないときは、特段の事情がない限り、目的物の所有権は当然に依頼者に帰属する。 第1 事案の概要:本件土地所有者Dから売却周旋…