一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)としてなした限定承認および債務弁済のための相続財産の競売申立につき、被相続人夫婦と表見相続人とは親子関係がなく、代理権のない者のなした不適法な行為であることを理由として、その効力を争うことはできない。
一 真正の相続人でない第三者が表見相続人に対し特定財産に対する家督相続の効力を争うことの許否 二 第三者が被相続人と表見相続人との親子関係の不存在を主張できない事例
旧民法966条,旧民法1034条
判旨
第三者は、表見相続人に対し、相続の無効を理由として特定の相続財産の承継取得の効力を争うことはできない。また、民法177条の「第三者」には、単に譲渡の事実を知っているだけの者も含まれ、信義則に反する特段の事情がない限り、登記の欠缺を主張し得る。
問題の所在(論点)
1. 真正相続人ではない第三者が、表見相続人に対し、その相続の無効を主張して相続財産の取得を争うことができるか。 2. 相続財産が譲渡された事実を知っているだけの者は、民法177条の「第三者」に含まれるか。また、どのような場合に第三者から除外されるか。
規範
1. 相続の無効を理由に相続財産の承継を争うことは相続回復請求権の行使にあたるため、真正相続人以外の第三者は、表見相続人による相続の効力を争うことはできない。 2. 民法177条にいう「第三者」とは、不動産に関する物権の得喪変更の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者を指し、単なる悪意者はこれに含まれる。ただし、不法に奪取する目的や通謀があるなど、登記の欠缺を主張することが信義誠実の原則に反する場合は、保護される第三者にはあたらない。
事件番号: 昭和33(オ)169 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を元の所有者から譲り受けたと偽って第三者に譲渡した者は、真の譲受人に対して民法177条の「第三者」に該当しない。無権利者から不動産を譲り受けた者、およびその転得者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に当たらないためである。 第1 事案の概要:本件宅地について、被上告人は元所有者Dから…
重要事実
上告人の先代は、被相続人Dから本件不動産の贈与を受けたが、登記を未了のままにしていた。その後、被相続人の表見相続人である被上告人Bが相続による承継を主張し、親権者Eが限定承認及び換価競売を申し立てた。被上告会社代表者は、上告人先代への贈与の事実を知りながら自ら競買人となり、競売に基づき本件不動産の所有権を取得した。上告人は、Bの相続は無効であり、かつ被上告会社は悪意または背信的悪意者であるとして、所有権を主張した。
あてはめ
1. 相続無効の主張は相続回復請求の一環であるところ、これをなし得るのは真正相続人に限られる。第三者である上告人は、被上告人Bが表見相続人であるとしても、その相続の無効を主張して不動産承継を争うことはできない。Bの身分関係を争うことも同様に許されない。 2. 被上告会社代表者が贈与の事実を知っていた(悪意)としても、民法177条は善意を要求していないため、当然には第三者から除外されない。原審において、通謀の事実や不法奪取の目的といった信義則に反する事実は否定されており、単なる悪意者にすぎない被上告会社は「第三者」として登記の欠缺を主張できる。
結論
上告人は被上告人Bの相続の無効を主張できず、また被上告会社は民法177条の第三者にあたる。したがって、登記を備えていない上告人は所有権を被上告会社に対抗できず、上告は棄却される。
実務上の射程
相続回復請求権の行使主体の限定(真正相続人のみ)という法理と、民法177条における「第三者」の範囲(背信的悪意者排除の法理の裏返し)を示す。答案上、悪意者が直ちに背信的悪意者になるわけではないことを論述する際の根拠として重要である。
事件番号: 昭和31(オ)793 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上の要件を欠く家督相続人選定は無効であり、戸籍上の記載が抹消された後は、表見相続人として権利者たる保護を受ける余地はない。真正相続人以外の第三者であっても、表見相続人が自ら権利を主張する場合には、その相続の無効を争い得ると解される。 第1 事案の概要:被相続人Fが死亡し、法定・指定の家督相続人…
事件番号: 昭和29(オ)718 / 裁判年月日: 昭和30年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第二の買受人は、自らが登記を具備していなくとも、第一の買受人に対して登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する「第三者」に該当する。 第1 事案の概要:上告人は、係争家屋を被上告人が代物弁済により取得する以前に譲り受けていたと主張した。しかし、上告人は当該譲受について何…
事件番号: 昭和40(オ)1016 / 裁判年月日: 昭和42年6月30日 / 結論: その他
甲が乙との間で自己所有の建物につき代物弁済の予約を締結し、乙が右予約に基づく完結権を行使したが、その所有権移転登記前に右完結の意思表示を撤回し、しかる後関係書類を利用して、右建物を自己名義に所有権移転登記を経由した場合には、乙から右建物を買受けてその旨の所有権移転登記を受けた丙および丙からこれを賃借した丁らは甲に対し右…
事件番号: 昭和34(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第一の譲受人は、自らが未だ所有権移転登記を備えていない以上、第二の譲受人に対して所有権の取得を対抗することができない。これは、第二の譲受人の有する登記が有効であるか否かを問わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産を譲り受けたと主張しているが、未だその所有権取得の登…