不動産の譲渡人から与えられた代理権に基き、譲渡人の死亡後同人の代理人名義の申請によつてなされた移転登記は、それが現在の真実な権利状態に符合するものである限り、対抗力を有し、譲渡人の相続人は譲受人に対し、その抹消を請求することはできない。
不動産の譲渡人の死亡後同人の代理人の名義でなされた登記とその抹消請求の許否
民法111条,民法177条
判旨
不動産登記の申請手続に瑕疵があっても、その登記が現在の実体的な権利関係に合致するものである限り、当該登記は有効であり対抗力を有する。
問題の所在(論点)
本人死亡後に、生前の授権に基づき行われた不動産登記申請(いわゆる死者名義の登記申請)に手続上の瑕疵がある場合、当該登記の効力は認められるか。実体的な権利関係との適合性が、登記の効力に与える影響が問題となる。
規範
登記手続の瑕疵の態様にかかわらず、登記の有効性および対抗力の有無は、その登記によって公示される内容が現在の真実な権利状態に符合するかどうかによって決すべきである。したがって、手続に不備があっても、それが実体上の権利関係を正しく反映したものである限り、当該登記を無効とすることはできない。
重要事実
Dは、生前に本件各土地を上告人らに譲渡したが、所有権移転登記が完了する前に死亡した。Dの死後、Dから登記手続の代理権を与えられていた訴外Eが、本人(D)が死亡しているにもかかわらず、従前の代理権に基づいて本件各登記の申請を行い、登記を完了させた。これに対し、Dの一般承継人である被上告人らが、本件各登記は本人死亡後の無権代理人による申請であり、登記法の形式的要件を欠く不適法なものであるとして、その抹消を請求した。
事件番号: 昭和34(オ)70 / 裁判年月日: 昭和35年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】登記申請手続に瑕疵がある登記であっても、それが現在の実体的な権利関係に合致するものである限り、当該登記は有効であり、登記義務者はその抹消を請求することができない。 第1 事案の概要:本件において、上告人と被上告人の間で売買が行われ、それに基づき所有権移転登記がなされた。上告人は、当該登記の申請手続…
あてはめ
本件各登記は、登記名義人Dの死亡後に代理人Eによってなされたものであり、不動産登記法上の適正な手続を欠くものである。しかし、第一審が認定した事実によれば、上告人らはDの生前に本件各土地を譲り受けて所有権を取得している。そうであれば、本件各登記はDの生前の意思に基づき成立した実体的な権利関係と合致するものである。このように、登記の内容が現在の真実な権利状態を反映している場合には、手続上の瑕疵を理由に一律に無効とすべきではなく、対抗力を認めるのが相当である。したがって、被上告人らの抹消登記請求は認められない。
結論
登記手続に瑕疵があっても、それが実体上の権利関係と符合する限り有効である。本件では譲渡の事実が認められるため、上告人らに対する抹消請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
登記の有効性を判断する際の「実体関係との合致」の重要性を示す。答案では、登記の有効性が争われる場面で、手続的瑕疵(死者名義、中間省略、冒頭省略等)があったとしても、実体的な権利変動の有無を検討し、合致するなら有効と結論付ける際の規範として用いる。
事件番号: 昭和32(オ)20 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
登記申請が登記義務者の意思に基いてなされたものであり、よつてなされた登記が実体的権利関係に合致するときは、たとえ右申請の際に添付された印鑑証明書の日附が変造されたものであつても、なお、登記の効力を妨げないというべきである。
事件番号: 昭和27(オ)106 / 裁判年月日: 昭和29年12月17日 / 結論: 棄却
不動産の所有権移転登記または電話加入名義の変更登録が事実上の権利関係に合致するときは、たとえ右登記登録が譲渡人の死亡後同人またはその代理人名義の申請によりなされたものであつても、譲渡人の相続人は、譲受人に対しその抹消を請求することはできない。
事件番号: 昭和31(オ)793 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上の要件を欠く家督相続人選定は無効であり、戸籍上の記載が抹消された後は、表見相続人として権利者たる保護を受ける余地はない。真正相続人以外の第三者であっても、表見相続人が自ら権利を主張する場合には、その相続の無効を争い得ると解される。 第1 事案の概要:被相続人Fが死亡し、法定・指定の家督相続人…
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。