登記申請が登記義務者の意思に基いてなされたものであり、よつてなされた登記が実体的権利関係に合致するときは、たとえ右申請の際に添付された印鑑証明書の日附が変造されたものであつても、なお、登記の効力を妨げないというべきである。
瑕疵ある登記申請に基いてなされた登記の効力。
民法177条,不動産登記法35条,不動産登記法施行細則43条
判旨
不動産登記の申請にあたり、添付された印鑑証明書に変造という瑕疵があったとしても、登記申請自体が本人の意思に基づくものであり、実体上の権利関係と合致する場合には、その登記の効力は妨げられない。
問題の所在(論点)
登記申請手続において変造された印鑑証明書が使用されたという瑕疵がある場合、その瑕疵を理由に当該登記を無効とすべきか。実体上の権利関係と一致し、かつ本人の意思に基づいている場合の登記の有効性が問題となる。
規範
登記申請手続において添付書類に形式的な不備(変造等)がある場合であっても、当該登記申請が登記義務者の真実の意思に基づいてなされたものであり、かつ実体上の権利関係と合致しているときは、その瑕疵は比較的軽微な方式違反にすぎず、なされた登記の効力に影響を及ぼさない。
重要事実
上告人の三男であるDが、上告人名義の売買契約書、不動産売渡証書、および白紙委任状を司法書士に作成させ、上告人の不動産に売渡担保を設定した。上告人は高齢のため、他人の折衝や文書作成をDに代行させており、本件不動産を売渡担保に供することをあらかじめ承諾して一切の手続をDに代理させていた。しかし、登記申請時に添付された印鑑証明書は、日付の「昭和23年」を「25年」に変造したものであった。
事件番号: 昭和30(オ)724 / 裁判年月日: 昭和32年1月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の登記原因が虚偽であっても、その登記が現在の真実の権利関係と合致するものであるならば、当該登記は有効である。 第1 事案の概要:被上告人B1は、本件家屋の所有権を家督相続により適法に取得した。一方で、本件家屋についてはB2を権利者とする所有権取得登記がなされていたが、その登記原因とされた贈与…
あてはめ
まず、上告人はDに対し、不動産を売渡担保に供する一切の手続を代理する権限を与えており、登記申請は上告人の意思に基づいたものといえる。次に、添付された印鑑証明書の日付が変造されている点は、登記申請上の瑕疵であることは否定できない。しかし、印鑑証明書の役割は、文書の印影が本人のものであり作成者が本人に相違ないことを証明する点にあるところ、本件では上告人の意思に基づく申請である事実に変わりはない。したがって、この変造という瑕疵は比較的軽微な方式違反にとどまり、実体関係とも吻合しているため、登記の効力を否定する理由にはならない。
結論
本件登記は有効である。登記申請手続に瑕疵があっても、それが実体上の権利関係に合致する限り、登記の効力は消長を来さない。
実務上の射程
本判決は、不動産登記の有効性を判断するにあたり「実体関係との合致」を重視する実体優先主義を補強するものである。司法試験においては、不実の登記や無効な登記の流用といった論点において、形式的な手続違背があっても実体関係と一致していれば有効と解する際の論拠として活用できる。特に本人の意思の有無が結論を左右する要素となる。
事件番号: 昭和34(オ)70 / 裁判年月日: 昭和35年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】登記申請手続に瑕疵がある登記であっても、それが現在の実体的な権利関係に合致するものである限り、当該登記は有効であり、登記義務者はその抹消を請求することができない。 第1 事案の概要:本件において、上告人と被上告人の間で売買が行われ、それに基づき所有権移転登記がなされた。上告人は、当該登記の申請手続…
事件番号: 昭和28(オ)111 / 裁判年月日: 昭和31年7月27日 / 結論: 破棄差戻
不動産の譲渡人から与えられた代理権に基き、譲渡人の死亡後同人の代理人名義の申請によつてなされた移転登記は、それが現在の真実な権利状態に符合するものである限り、対抗力を有し、譲渡人の相続人は譲受人に対し、その抹消を請求することはできない。
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
事件番号: 昭和32(オ)748 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権取得に関する当事者双方の主張事実が証拠上認められない場合、公簿(登記簿等)の記載をもって一応真実の権利状態に適合するものと推定し、事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:本件家屋の所有権取得をめぐり、原告・被告双方が自己の所有権を主張したが、原審において双方の主張する取得原…