代理人が本人の名を相手方に知らさないでなした売買契約につき、契約の成立を認めた事例。
判旨
売買の周旋を依頼された者が、実際の買主の存在を告げずに自己の名義で売買代金を支払い、自己宛の領収書を受け取った場合であっても、所有権を依頼者に帰属させる趣旨で周旋を行ったに過ぎないときは、特段の事情がない限り、目的物の所有権は当然に依頼者に帰属する。
問題の所在(論点)
周旋の依頼を受けた者が、売主に対して実際の買主(依頼者)の存在を告げず、自己の名義で取引行為を行った場合において、当該不動産の所有権は誰に帰属するか。依頼者への直接的な所有権移転が認められるかが問題となる。
規範
売買の周旋を依頼された者が、所有権の帰属を依頼者とする趣旨を以て単にその周旋をしたに過ぎない場合には、特段の事情がない限り、買い受けた目的物の所有権は、当然に買受の周旋を依頼した本人(依頼者)に帰属する。
重要事実
本件土地所有者Dから売却周旋を依頼されていたEに対し、上告人は本件土地の買受けを申し入れ、代金6万円を支払って上告人宛の領収書を受け取った。しかし、上告人は被上告人の亡夫Fから本件土地の買受周旋を依頼されていた立場であり、実際にはFが代金を支払っていた。上告人は、自身が単なる周旋人であることを秘して取引を行っていたが、D名義上告人宛の領収書を直ちにFに渡していた。
あてはめ
上告人は、形式上は自己の名義で領収書を受け取っているものの、その実態はFから依頼された周旋人に過ぎない。上告人が受け取った領収書を直ちにFに交付している事実は、上告人が所有権をFに帰属させる意図で動いていたことを強く推認させる。したがって、本件売買による所有権の帰属先をFとする趣旨で周旋が行われたものと認められる。この場合、名義の如何にかかわらず、特段の事情がない限り、所有権は実質的な買主であるFに当然に帰属すると解される。上告人は自らが買い受けたものであると主張して権利を行使することはできない。
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
結論
本件土地の所有権は依頼者であるFに帰属する。したがって、上告人による所有権主張およびこれに基づく請求は認められない。
実務上の射程
代理権の表示がない顕名なき代理(商行為等)や、取次(自己の名をもって他人の計算で行動する)に類似する事案において、物権変動の直接的帰属を認める際の構成として活用できる。特に「所有権の帰属を本人とする趣旨」という主観的態様と領収書の授受等の客観的事実を組み合わせて帰属を判断する枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和31(オ)793 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上の要件を欠く家督相続人選定は無効であり、戸籍上の記載が抹消された後は、表見相続人として権利者たる保護を受ける余地はない。真正相続人以外の第三者であっても、表見相続人が自ら権利を主張する場合には、その相続の無効を争い得ると解される。 第1 事案の概要:被相続人Fが死亡し、法定・指定の家督相続人…
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
事件番号: 昭和35(オ)1299 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: その他
建物所有権移転請求権保全の仮登記権利は、本登記をなすに必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しないかぎり、登記の欠缺を主張しうる第三者に対し該建物の明渡を求めることは許されない。
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…