一 代物弁済の予約が公序良俗違反にならないとされた事例 二 民法第一一〇条の表見代理の主張の有無につき釈明義務がないとされた事例
判旨
民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。
問題の所在(論点)
訴訟において、当事者が「代理権があると信じていた」旨の事実を主張した場合、そこに当然に民法110条の表見代理の主張が含まれていると解すべきか、また裁判所はそれについて釈明権を行使する義務があるか。
規範
民法110条の表見代理を主張・立証するためには、相手方において、行為者が当該代理権限を有していると信じ、かつそのように信じるにつき「正当の事由」があったことを構成する具体的な事実を主張しなければならない。当事者が単に「信じていた」事実や背景事情を主張するにとどまる場合には、当然に表見代理の主張が含まれると解することはできず、裁判所に釈明義務も生じない。
重要事実
上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を締結する権限を有していたこと、および債務者の代理人兼連帯債務者であるEが、B1には弁済を受領する代理権限もあると信じていたこと等の事実を主張した。しかし、これをもって民法110条の表見代理の要件(特に正当事由)を具備する主張がなされたといえるかが争点となった。
あてはめ
上告人らが主張した事実は、B1が契約締結に関与したことやEがB1に受領権限があると信じていたという点に限定されている。これらのみでは、Eにおいて「信ずるにつき正当の事由」があったという法的構成を基礎付けるに足りる主張とは認められない。したがって、当事者が表見代理の主張をしたと解することはできず、具体的な主張がない以上、裁判所が表見代理の成否について釈明を求める義務も認められない。
事件番号: 昭和36(オ)50 / 裁判年月日: 昭和38年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理人が本人から授与された権限(本件では10万円の保証および抵当権設定等)を超えて、より広範な内容の契約(30万円の根抵当権設定)を締結した場合、相手方が代理権を有すると信ずべき正当な理由があるときは、民法110条の表見代理が成立する。 第1 事案の概要:上告人はDに対し、10万円の範囲での借用債…
結論
表見代理の主張があったとは認められず、釈明義務違反の違法もないため、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験等の答案作成においては、表見代理を主張する際に単なる主観的信頼(善意)だけでなく、客観的な「正当事由」を基礎付ける具体的態様の主張が必要であることを示す。また、裁判所の釈明義務の限界を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和38(オ)186 / 裁判年月日: 昭和39年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の「正当な理由」の成否は、相手方が代理権があると信じたことについての過失の有無によって決せられるべきであり、本人の過失の有無は要件とならない。 第1 事案の概要:被上告人(本人)の代理人であるD・Eらが、授与された代理権の範囲を越えて、訴外Fの上告人(相手方・銀行側)に対する債務の連帯…
事件番号: 昭和28(オ)1350 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
本人の渡米不在中権限を踰越して土地売却の代理行為をした代理人について、本人の実印を所持していた事実の外、後記(判決理由参照)のような事情もあつたときは、民法第一一〇条の代理権ありと信ずべき正当の理由があるものということができる。
事件番号: 昭和38(オ)565 / 裁判年月日: 昭和39年9月18日 / 結論: 棄却
代理権を有する者のなした権限外の行為がその代理権となんら関係のない場合でも、相手方において代理人に権限があると信ずるに足る正当な理由があるときには、民法第一一〇条の適用がある。
事件番号: 昭和46(オ)88 / 裁判年月日: 昭和48年12月24日 / 結論: 破棄差戻
自称代理人が、金融業者から金融を受け、その債務を担保するため本人所有の農地につき抵当権設定契約及び条件付売買契約を締結するにあたり、本人の実印の押捺された金銭消費貸借並びに抵当権設定証書、農地法三条一項による許可申請書、登記のための委任状及び本人の印鑑証明書を提出したけれども、目的農地の登記済権利証を提出せず、貸主は本…