甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右登記の抹消を求めることができない。
建物明渡を命ずる判決に基づき右建物についてされた所有権移転登記の抹消請求が許されないとされた事例
不動産登記法26条,不動産登記法27条,民法177条
判旨
借地人による建物買取請求権の行使により建物の所有権は直ちに移転し、代金支払と登記・引渡しは同時履行の関係に立つが、登記が実体的権利関係に合致し、かつ代金支払済等により同時履行の抗弁権も消滅している場合には、手続上の瑕疵があっても当該登記の抹消を求めることはできない。
問題の所在(論点)
1. 建物買取請求権の行使による所有権移転の時期および同時履行関係の有無。2. 実体的権利関係に合致するが手続に瑕疵がある登記について、登記義務者が抹消を請求できるか。
規範
1. 借地人が建物買取請求権(旧借地法10条、現借地借家法13条1項)を行使した場合、その時に建物について売買契約が成立し、直ちに所有権移転の効力が生じる。2. この場合、建物の代金支払義務と建物所有権移転登記・明渡義務とは同時履行の関係に立つ。3. 登記義務者の意思に基づかない等、手続的に違法な登記であっても、それが現在の実体的権利関係に合致しており、かつ登記義務者の同時履行の抗弁権が消滅している場合には、登記義務者はその抹消を請求する利益を有しない。
重要事実
借地人(上告人)が地主(被上告人)に対し、借地上の建物について建物買取請求権を行使した。その後、地主は建物明渡を命ずる判決を得たが、所有権移転登記手続を命ずる判決は得ていない状態で、単独申請により本件建物の所有権移転登記を完了させた。借地人は、当該登記が自らの意思に基づかない違法なものであるとして、原因無効による登記抹消を請求した。なお、地主は買取代金30万円を既に適法に供託しており、登記当時、建物の帰属について利害関係を有する第三者は存在しなかった。
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
あてはめ
1. 上告人の買取請求権行使により、本件建物の所有権は直ちに被上告人に移転した。2. 被上告人が代金30万円を適法に供託したことで、上告人が有していた同時履行の抗弁権は消滅している。3. 本件登記は、上告人の意思を無視してなされた点において手続上は違法といえるが、既に所有権は被上告人に移転しており、実体的権利関係に合致している。また、上告人の抗弁権も消滅し、利害関係を有する第三者も存在しない以上、上告人が登記の抹消を求める正当な利益は認められない。
結論
本件登記は実体的権利関係に合致し、上告人の同時履行の抗弁権も消滅しているため、手続的瑕疵を理由とする抹消請求は認められない。
実務上の射程
建物買取請求権の形成権的性質と同時履行関係を論ずる際の基本判例である。また、不動産登記法上の手続違反があっても、実体法上の権利関係と一致し、かつ義務者の抗弁権を害さない場合には、登記の有効性が維持される(抹消請求が否定される)という実体関係重視の枠組みを示す。司法試験では、登記の有効性や買取請求権の効力が問題となる場面で活用できる。
事件番号: 昭和49(オ)1087 / 裁判年月日: 昭和50年11月28日 / 結論: その他
仮登記担保権者が目的不動産を自己の所有に帰属させるとの意思表示をしただけで清算をしないで仮登記のまま目的不動産を第三者に譲渡し、第三者が本登記を経た場合において、本登記が債務者の意思に基づかずにされたときは、債務者は第三者に対して右本登記の抹消手続を請求することができる。
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…
事件番号: 昭和41(オ)602 / 裁判年月日: 昭和43年3月7日 / 結論: 破棄差戻
一、判示の事情により、甲不動産につき抵当権設定契約および代物弁済予約形式の合意がされるとともに、乙不動産につき同一債権の担保を目的とする所有名義移転の合意がされた場合において、右両不動産の価額と弁済期までの債務元利金額とが合理的均衡を失するときは、債権者は、特別な事情のないかぎり、右両不動産を換価処分してこれによつて得…
事件番号: 昭和41(オ)431 / 裁判年月日: 昭和42年12月22日 / 結論: 棄却
訴状をもつて賃貸借契約の解約申入れをした事実および右解約申入れによる賃貸借契約終了の効果の発生を主張し、その後において右主張を撤回したからといつて、右解約申入れがされた事実までが消滅するものではなく、さらにその後において再度右主張をすることができる。