仮登記担保権者が目的不動産を自己の所有に帰属させるとの意思表示をしただけで清算をしないで仮登記のまま目的不動産を第三者に譲渡し、第三者が本登記を経た場合において、本登記が債務者の意思に基づかずにされたときは、債務者は第三者に対して右本登記の抹消手続を請求することができる。
仮登記担保権者から清算未了のまま目的不動産の譲渡を受けた第三者が債務者の意思に基づかないで所有権移転登記を経由した場合と債務者の右登記抹消手続請求権
民法177条,民法369条,民法482条
判旨
仮登記担保において清算金が未払いの間は、債権者が不動産を売却処分しても、登記が移転されるまでは債務者に所有権が留保される。そのため、債務者の意思に基づかない違法な手続で本登記が経由された場合、債務者は第三者に対し登記抹消を請求できる。
問題の所在(論点)
仮登記担保において清算金が未払いの状態で債権者が目的物を処分した場合、不動産の所有権は誰に帰属するか。また、債務者は第三者に対して登記の抹消を請求できるか。
規範
仮登記担保契約において、債務者が履行遅滞に陥り債権者が換価処分権能を取得した場合であっても、清算金の支払を要するときは、その提供があるまで換価処分は完了しない。清算金提供までは、目的不動産の所有権は債権者の換価処分権による制約を受けるものの、なお債務者に帰属する。したがって、債権者が仮登記のまま第三者に売却処分した場合、当該第三者が適正な手続により本登記を経たときは完全な所有権を取得するが、清算未了でかつ登記手続に瑕疵がある場合には、債務者は依然として所有権を有し、登記抹消を請求し得る。
重要事実
債務者Aは債権者Dに対し、借入金の担保として本件建物の所有権移転仮登記(仮登記担保)を完了させた。Aの履行遅滞後、DはAの代理人Eに対し暴行・脅迫を加えて白紙委任状等を強奪し、これを利用して第三者Bへ建物を売却。Bは仮登記に基づく本登記を経由した。しかし、DからAに対する清算金の支払は完了していなかった。AはBに対し、所有権に基づき登記抹消および建物明渡しを求めて提訴した。
事件番号: 昭和35(オ)1299 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: その他
建物所有権移転請求権保全の仮登記権利は、本登記をなすに必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しないかぎり、登記の欠缺を主張しうる第三者に対し該建物の明渡を求めることは許されない。
あてはめ
本件では、Dによる換価処分に際し、清算金の提供が行われていない。規範に照らせば、清算金が提供されるまでは本件建物の所有権は依然としてAに帰属する。また、Bが経由した本登記は、Dによる暴行・脅迫によって得られた書類を用いたものであり、Aの意思に基づかない「違法な手続」によるものといえる。このように登記手続に瑕疵がある以上、Bは完全な所有権を取得したとは認められず、所有権を保持するAはBに対し妨害排除請求としての登記抹消請求をなしうる。
結論
清算金が支払われず、かつ登記手続に瑕疵がある場合、建物の所有権は依然として債務者に帰属するため、債務者は第三者に対し登記抹消および建物明渡しを請求できる。
実務上の射程
仮登記担保法制定前の判例であるが、清算手続と所有権移転の時期に関する法理として現在も重要である。答案上は、債権者による私的実行(処分清算型)がなされた際に、清算金の不払や登記手続の違法性を理由に、債務者からの物権的請求権の可否を論ずる場面で活用する。
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…
事件番号: 昭和46(オ)503 / 裁判年月日: 昭和49年10月23日 / 結論: 破棄差戻
一、債権者が、金銭債権の満足を確保するために、債務者との間にその所有の不動産につき、代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約又は売買予約により、債務の不履行があつたときは債権者において右不動産の所有権を取得して自己の債権の満足をはかることができる旨を約し、かつ、停止条件付所有権移転又は所有権移転請求権保全の仮登記をしたと…
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。